【ダ・ヴィンチ2017年11月号】今月のプラチナ本は 『Ank: a mirroring ape』
2017/10/6

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?
『Ank: a mirroring ape』
●あらすじ●
2026年、京都で大規模な暴動が起こった。人と人が殺し合い、多くの死傷者を出した暴動はなぜ起きたのか。ウィルスや病原菌などの作用ではない。何かのテロでもない。発端はたった一匹の類人猿、東アフリカからやってきたチンパンジーの「アンク(鏡)」だった。この災厄を追うのは、天才科学者ダニエル・キュイが創設した霊長類研究施設「京都ムーンウォッチャーズ・プロジェクト」のセンター長・鈴木望。絶望的な状況下において、彼はひとり混乱に身を投じていく――。人類はどこから来て、どこへ行くのか。古都を舞台に人類史の旅へ誘う、パニックスリラー。
さとう・きわむ●1977年、福岡県生まれ。2004年、佐藤憲胤名義で書いた「サージウスの死神」が第47回群像新人文学賞優秀作に選ばれ、デビュー。16年、改名して応募した『QJKJQ』で第62回江戸川乱歩賞を受賞。
編集部寸評
700万年を見はるかす超・長射程エンタメ!
壮大なる大風呂敷エンターテインメント小説、大変面白く読ませていただきました! 身の回り半径100メートル以内をていねいに描いた物語もよいものだけれど、700万年にわたる人類史を見はるかす本作のダイナミックさには心底からわくわくさせられた。京都暴動はなぜ起きたのか? 人類と類人猿を隔てたものは何か? まるで射程距離が異なると思われる二つの謎が、いつのまにか絡まりあって読者をページの先へ先へと駆り立てる。意図的に時系列を前後させ、その時々の決めゼリフ・名シーンだけを見せていく構成はまるで映画の予告編のようで、これまた読者の興味をそそって逃がさない。やがて解き明かされていく謎……フィクションだとわかっていても、本作で展開される理論は〝真実〟を突いているのではないかと思わされる、その瞬間のスリルがたまりません。
関口靖彦 本誌編集長。科学的な謎を追いつつアクションシーンもたっぷりで、著者の「絶対に飽きさせない」という気迫が凄まじい。次はどんな物語が生み出されるのか、今から楽しみです!
読後、プロローグを読み返してください。
著者はいったいどこからこの物語の着想を得たのだろう。近未来、京都で突発的に起こった原因不明の超暴動、ゾンビでもなく、戦争でもなく、ウイルスでもなく……。映像にしたら、風光明媚な景色を背景にとてつもなくスプラッタな画面になること必須の本作だが、小説はとても深遠な気持ちにさせられた。霊長類の進化とその暴力性についてはとかく語られることではあるけれど、我々はなんのために知性を獲得してきたのかという思いにもとらわれる。「鏡」をキーワードの語られる進化の謎。鏡のある部屋での虐待の記憶。不思議な詩を鏡文字で胸に刻む女性。フィクションだとはわかっていても、突きつけられるピースが組み合わされていく過程で心をつかまれるシーンがいくつもあった。プロローグが秀逸。ここにすべてが書かれています。読後、ぜひ読み返してください。
稲子美砂 『メイク・ア・ウィッシュ 夢の実現が人生を変えた』が先月発売になりました! 夢を持つこと、夢を応援することの楽しさと喜びが詰まった大感動の一冊です。194Pのインタビューもぜひ!
がっつり物語に浸ってほしい
正統派SFを存分に堪能した。長編だけどドラマチックな展開が最後までぐいぐいひっぱってくれたと思う。なつかしさと新しさを同時に感じつつ、ガツンとした世界観に満足する。読んでいてふと、実家で飼っていた犬が、母にだっこされて鏡や窓ガラスを見せられるのが嫌いだったなぁと思いだした。母は私たちと姿かたちが違うからさみしくて嫌なんだよね、などと犬に向かって話しかけていたけど、犬は自分を認識しないというからライバルだと思った可能性のほうが高いなぁ。
鎌野静華 3年ぶりに髪をショートカットにしたら、ワックス&スタイリング必須に。朝の準備に時間がかかる~。……社会人、身だしなみ重要ですよね(汗)。
きみと私にしかわからない鏡文字
突如として起きた京都暴動(キョート・ライオット)を巡り、明らかになっていく人類史の謎。スピーディかつスリリングな展開はそれだけで超一流のエンタメだが、わずかながらの描写で印象に残ったのが、望とケイティの運命だ。暴動の三日前、科学者とインタビュアーとしてテーブル越しに対峙した二人は、重度のトラウマと〈鏡への執着〉で結ばれていた。言語、暴力、自由意志。〈あるものとないもの〉を巡って認識を揺さぶる物語だが、彼ら男女の関係もその一つ。著者のラブストーリーを読んでみたい!
川戸崇央 紗倉まなさんの初小説『最低。』が文庫化&映画化。AVという題材ながら、第30回東京国際映画祭にノミネートされました。詳細は本誌190P〜
京都舞台の先に、世界の読者が見える
今作、パニックスリラーである。物語の舞台は京都だ。「なんで京都なんだろう?」と疑問に思ったので、著者のさまざまなインタビュー記事を読んだ。京都は京都大学の霊長類研究で世界のトップクラスにあること。そして、どうやら「日本の小説」として海外進出を狙っている思惑もみえる……。大納得。壮大な映画を観るような、ゲームを見ているようなハラハラ感。著者が作家として、文芸の未来を見据えた上での計画的な執筆姿勢があるのも好きだ。ぜひ海外翻訳されてほしい。
村井有紀子 『おそ松さん』表紙&特集担当。松ガール健在です。また大泉洋さん主演小説・塩田武士さん著『騙し絵の牙』が発売10日で4刷! 感謝です!
SF苦手のひとにこそ
群衆が突如として凶暴化し、死ぬまで殴りあう事件を発端に、謎の鍵を握る一匹のチンパンジーの研究を軸に物語は進む。「凶暴化」解明の中で明かされていく、「ヒトの進化と、言語獲得」の仮説には、伊藤計劃さんの『虐殺器官』に登場する「虐殺文法」のようにスリリングな説得力があり、埃かぶった知的好奇心をビリビリ刺激された。膨大な調査と、論理構築が窺える骨太なSFだが、ハリウッド映画を観るようにイッキに読めてしまうのでSFに手が伸びにくい人にこそ楽しんで欲しい一冊。
高岡遼 「おそ松&秋アニメ」特集を担当。沢山の方々のご協力をいただき、奇跡のような企画たちが実現。夢中で特集を作らせていただきました!
「生きるための呪い」に気づく
「本能は、生きるための呪いのようなものなんだよ」。作中で主人公が語るこの言葉にシビれて、本書を読んでから何度も思い出している。何百万年前から、遺伝子レベルで組み込まれてきた「本能」が自分のなかに確かにあって、それが行動、ひいては運命さえ支配しているのかもしれない……。人類史をさかのぼる壮大な展開にくらくらしつつも、ふだん意識しないで生きている「ヒト」としての自分に気づいて、思わずぞくり。読後、見える世界が変わります。
西條弓子 石川善樹さんと吉田尚記さんの新刊『どうすれば幸せになれるか科学的に考えてみた』発売記念対談がP192〜に掲載。キレッキレの議論をぜひ。
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