究極の愛は「無執着」!? アスペルガー症候群のパートナー向け恋愛指南書が説く“困惑とうつ”の脱却法

恋愛・結婚

公開日:2017/10/16

『アスペルガーのパートナーのいる女性が知っておくべき22の心得』(ルディ・シモン:著、牧野 恵:訳/スペクトラム出版社)

「あなたが体や心に傷を負っていても、彼は助けてくれる人ではありません。これは忘れないようにしてください」

 なぜパートナーは自分の気持ちを理解してくれないのかとひとり悩み、かといってスッパリと関係を切る度胸もない。女友だちに話したところで「なんで、そんな男と付き合っているの?」と呆れられるだけで、人に相談する気力すらなくなってしまった。そんな折、ワラをもすがる思いで手にした恋愛指南書にこんなことが書かれてあったら……さあ、あなたならどうする?

『アスペルガーのパートナーのいる女性が知っておくべき22の心得』(ルディ・シモン:著、牧野 恵:訳/スペクトラム出版社)は、アスペルガー症候群(以下AS)の教育者が、AS男性をパートナーに持つ女性向けに書いた恋愛指南書だ。恋愛指南書、いわゆる一般的なモテ本は、「望むように愛されたい」読者が、自己承認欲求をどのように満たすかについて書かれてあることが常。しかしながら、本書は、そうした類の本とは一線を画し、むしろ「望むように愛されないとき、どういう心持ちでいるか」について詳しく解説してある。

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 AS男性と恋愛関係にある人が陥りがちな「カサンドラ愛情剥奪症候群」は、感情が剥奪されたような思いや自己疑念にとらわれる“困惑とうつ”症状の一種だ。AS男性は、恋愛に必要なコミュニケーション、予想、社交、感覚といった要素を最も苦手とする傾向が強く、ゆえにAS男性を愛した女性は、その苦しみを相手や周囲に理解してもらえず、孤立感・孤独感から不健康な状態に陥るケースが多い。本書はいわば、そんな状態を脱するためのトリセツである。相手や周りの声に振り回される自分から、揺るがない自分への脱皮。それが根底に流れるテーマだ。

 中でも章ごとの文末に書かれてある「ポジティブノート」は圧巻。「ポジティブ」と書かれてあるにも拘らず「恋する乙女」に夢を持たせるような言葉は皆無。むしろ、恋愛に必要なのは忍耐とタフさという現実を淡々と突き付けてくる。

「あなたにはまれなチャンスが与えられています。独身女性としての自立、自分のスペース、時間。好きなことに没頭することもできます」

「私は、もしかすると仏陀自身ASではなかったかと思うことがあります。仏教のことを少しでも知っている人なら、教えの根底に一貫する『無執着』の原則を聞いたことがあるはずです」

 どうだろう、この静かに目を瞑り、座禅でも組みたくなってくる空気感……。ここまでくると“悟り”である。パートナーがASでなくとも、恋愛すると相手に振り回され、何も手につかなくなるタイプの人は、一旦、冷静さを取り戻すためにも一読の価値ありだ。

 診断の有無にかかわらず、定型発達の人間が自分たちのために作ったような社会の中で、自由かつ無垢な精神を持ち続け、自分を頼りに生きる傾向の強いAS男性と共に生きるのは容易いことではない。その反面、自由を謳歌するASの人がパートナーだからこそ、大いに楽しめ、冒険できる部分があるのも忘れてはならない。知識不足で不用意に傷ついて自信喪失してしまうくらいなら、まずはその知識を蓄えてみるのも手。その結果、揺るがない自分と揺るがない絆を築き上げられれば百人力である。

文=山葵夕子