人間関係の悩みは「距離感」だけで解決――“世界が尊敬する日本人100人”に選出された禅僧から学ぶ、人付き合いの極意

ライフスタイル

2017/10/16

『近すぎず、遠すぎず。 他人に振り回されない人付き合いの極意』(枡野俊明/KADOKAWA)

 人間関係でストレスを感じることは少なくない。プライベートであれば、連絡を取らないなどの対処もできるが、仕事の関係者となると、そうはいかない。2016年に発表された調査結果によれば、男女ともに離職理由の3位が職場の人間関係であり(「男女別離職理由ランキング」リブセンス)、多くの人にとって深刻な問題であることが分かる。

『近すぎず、遠すぎず。 他人に振り回されない人付き合いの極意』(枡野俊明/KADOKAWA)は、人間関係の悩みは「距離感」で解決できると指摘。著者の枡野俊明氏は、禅僧であり、「禅の庭」のデザイナーとしても様々な功績を収めてきた。その過程で、「禅の庭」づくりと人間関係づくりに共通点が多いことに気づいたという。

 著者によれば、「禅の庭」は「禅の美が表現された空間」。禅の美は7つに分類されており、人間関係においても大切な要素だ。「禅の庭」には、調和を保ちながら、この7つの美が息づいている。

■不均斉
 禅において美しいとされるのは、均斉ではない。均斉は完成した姿を指すが、禅はその先を求める。見る人、手にとる人の想像力を掻き立てる「不均斉」だ。人間も同じ。完璧でなくていいし、完璧でないからこそ、無限の可能性が宿る。その可能性を信じていれば、苦手な人にも新たな一面が見えるかもしれない。

■簡素
「禅の庭」づくりの基本は、“削ぎ落とす”こと。素材にも手を加えず、あるがままの状態で、最も美しい表情を見極める。簡素であるほど、深い奥行きと広がり、緊張感が生まれるからだ。コミュニケーションもシンプルなほうが心地よい。電話やメール、SNSなどの便利なツールに頼りすぎず、「会う」「直接向き合う」という原点に立ち戻ってみよう。

■枯高
 老いた松には、歴史がある。長い年月を経て朽ちる枝もあるが、若い松にはない厳とした存在感がある。著者によれば、この風情こそが枯高であり禅の美だそう。人間関係では、嫌われる勇気を持ち、簡単に迎合しないことが大切。認めるべきところでは相手を認めつつ、自分を貫く。これを意識していれば、心地よい人間関係が築けるはずだ。

■自然
 禅の世界では、「自然」を「しぜん」ではなく「じねん」と読む。「よく見せよう」「見る人を感動させよう」という自我を捨て、その時できる精一杯のことを淡々と実践する。人間関係においても「自然のままの自分の心」が大切。ただ友人の数が多ければいいわけではない。「分かち合う」という視点で、目の前の一人を大切にする。そうやって広がった人脈なら、数を気にする必要はない。

■幽玄
 日本の芸術・文化に受け継がれている伝統である「幽玄」。内に深く秘めた余韻のことで、想像にゆだねられた世界ともいえる。「禅の庭」では「余白」が大切な要素であり、これが「幽玄」を表現している。人とのコミュニケーションでは、「沈黙」が該当する。言葉だけに頼らず、沈黙を恐れないこと。時に、沈黙は言葉より雄弁であり、言葉で言い尽くせない思いを語ってくれる。

■脱俗
「脱俗」とは、決まりごとや枠組みから自由でいること。本書では、七福神の一人である布袋さんが例として挙げられている。誰にどう見られようと、体裁を気にしない自由な姿。これも禅の美だ。「ねばならない」という自分の物差しを捨てれば、相手に寛容でいられる。人間関係では、どちらか一方が距離を決めることはできないので、お互いを活かせる距離を見つけることも大切だ。

■静寂
 禅でいう「静寂」とは、自分の心が感じとるもの。自然の音が聞くともなしに聞こえてくる“静けさ”だ。これを体感すると心が安らかになる。毎日の生活の中で、心を乱されることも多いだろう。根拠のない不安を感じた時は、その多くが自分の妄想である可能性が高い。必要以上に不安を大きくせず、心に静けさを保つこと。特に、人間関係の問題に対応する時には、必ず心に静けさを取り戻そう。

 これまでにも、人間関係やコミュニケーションに関する書籍は多数読んできたが、本書は「禅の美」に注目した、ひと味違うものになっている。著者が禅僧ということもあり、読んでいるだけで心が落ち着き、確かにそこにある「美」を感じることができる。忙しい日々を送りながら忘れてしまった、大切な何かに気づかせてくれる。人間関係のみならず、生き方そのものに対してヒントをもらえる、そんな一冊。ぜひ多くの方に手にとっていただきたい。

文=松澤友子