「ママ友いじめ」が映し出す主婦たちのリアル。彼女らが向き合う生々しい現実と心の闇

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更新日:2017/10/20

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 水曜ドラマ『奥様は、取り扱い注意』(日本テレビ系)は、ワケありの過去を持つ主人公・菜美(綾瀬はるか)がひょんなことから主婦となり、街で起こるトラブルを解決していくストーリーです。citrusでは本ドラマの連動企画として、各放送回で取り上げる社会問題にまつわる記事を掲載。さまざまなジャンルに精通したcitrusオーサーが、ドラマをより深く楽しむためのヒントを提供していきます。

~『奥様は、取り扱い注意』連動企画 Vol.03~
ママ友いじめの「取り扱い説明書」~その仕組みと回避法~

<第三話あらすじ>ある日、菜美(綾瀬はるか)と街で出会った主婦・理沙(小野ゆり子)は幼稚園のママ友にいじめられていることを告白する。理沙はボスママの貴子(青木さやか)に立ち向かうため、菜美、優里(広末涼子)、京子(本田翼)と特訓を始める…

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 今回ご登場いただくcitrusオーサーは、コラムニストの河崎環さん。「ママ友いじめ」はどのように起こり、どうすれば避けられるのか。ドラマのテーマにあわせながら、河崎さんが解説します。

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■『奥様は~』は主婦にとって「超アツい」

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 『奥様は、取り扱い注意」は主婦の私にとって超アツく、この秋、万難を排して見続けてしまう予感です。綾瀬はるかさん演じるワケありの過去を持つ主婦が、婚活の末に出逢いゴールインした相手は、おそらく2010年代を通して日本全国津々浦々、最も多くの人妻たちの妄想夫となっているに違いない、あの西島秀俊さん。そんな西島さん自身は(個人的に)もちろん、綾瀬はるかさんに自分を投影し、西島さんとの夫婦生活を想像して毎週胸を焦がせるという、この贅沢さです。

 が、それ以上に、二人の愛の巣のある街で起こるさまざまな問題を、綾瀬さんがママ友とともに解決していく、その「さまざまな問題」が毎回強いインパクトなのも見どころ。DVだ元AV女優の過去脅迫だ……と、「すごいところ行きますね……?」と、ウェブでプチ炎上を繰り返す私でもためらうほど、脚本・金城一紀さんが毎週攻めています。第3話のテーマは「ママ友いじめ」。町内のボスママにいじめられている主婦が、主人公との特訓を経て、ボスママに立ち向かうというストーリーです。

■ママ友いじめ「する側」の論理

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 ママ友いじめという言葉が脚光を浴びたのは、決して最近のことではありません。児童公園で、習い事で、幼稚園で、小学校で、子どもを持つ母親の間で結託して特定の母親を仲間はずれにするなど、当事者以外からすれば大人げなく些細なことのように思える「女同士の意地悪」。ですが、中には子どもに報復するなど痛ましい事件に発展したケースもあり、2000年代からずっと、ことあるごとにさまざまなメディアで扱われてきたトピックです。そこまで論じ尽くされてきたにもかかわらず、いまだ安定したニーズを誇って(?)いるのはなぜなのでしょう。

 それはママ友が、母という共通項で無理やりひとくくりにされた狭い女の集団であること、その中のヒエラルキーがどの時代にも揺れ動き、不安定で曖昧なのになぜかママたちがヒエラルキーを作りたがること、そして特に、子育て中の母親のやり場のない焦燥感が原因のようです。「なんかあの人、生意気」「態度がムカつく」なんて単純な(それこそ小・中学生のような)感情論もありえますが、母となった女のいじめは、それまでの「ザ・女の心理全開」な、あからさまな嫉妬によるいじめとは、少し様相が異なります。

 往々にして、「良い母でいたい」「自分の子どものために良かれと思って」との思いがあるために、自分が考える秩序を乱すと感じた他のママ友を攻撃するのです。「だってあの人、全員参加のはずの行事にズルして参加しなかったのよ? それって母親としてどうなのかしら」とか、「LINEの返事がちょっと空気読めてなくて、頑張ってる”みんなの”気持ちを逆なでするよね」とか、「そういうのって集団の和を乱すじゃない?」とか、実は彼女たちなりの強い正義感を根拠としていたりします。ですから本人たちは、「困ったちゃん」に制裁をしているつもりくらいの認識で、決して悪いことをしているとは思っていないことも。でも、毎日子ども連れで顔を合わせるような狭い人間関係でそんな仕打ちを受ける側は、追い詰められていき、事態が深刻化するのです。

■「狭い人間関係」が世界のすべてだと思い込む心理

 そしてそれを暗に周囲にそそのかすのが、ボスママとその取り巻き。その多くが、頭も気も回って「できる」女性であるため、ママ友のヒエラルキーで比較的上位にいて発言権も強く、集団の空気を支配してしまいます。その女性ならではの「支配」とは、実はその人のやり場のない焦燥感とエネルギーの矛先が向いたもの。本当なら仕事をしたい、あるいは家族に愛されたい、自分が毎日している子どもや夫への献身は正しいことだと信じたい、など、満たされない自己承認欲求を他者への攻撃で満たそうとしてしまう心の動きです。第3話でも、青木さやかさん演じるボスママは、誰にも言えない辛い現実と向き合っています。

 「ママ友いじめを回避するにはどうしたらいいでしょうか?」。この話題の仕事依頼で、必ず問われるフレーズです。私はいつも「狭い人間関係から飛び出すのが一番」と答えています。いじめる側も、される側も、ともに限定的な人間関係しか視界に入っていない視野狭窄状態で、それが世界のすべてだと思い込んでいます。だから、加害側も被害側も追い込まれるのです。公園や幼稚園、子どもの習い事の場など、もう放課後の中高生じゃないのですから、そこに溜まるのをやめて、母親も他のことに時間を振り向けたいものです。子どもの人生と母親の人生は別、と感じられるようになって初めて、子供の自立以前に母親(大人)としても自立できるのではないでしょうか。第3話のはじめに、いじめられている母親が主人公に助けを求めて話しかけるシーンがあります。その瞬間こそ、その母親の自立が始まった瞬間なのです。

日テレ水曜ドラマ
『奥様は、取り扱い注意』

毎週水曜22時~
<出演>
綾瀬はるか
広末涼子
本田翼
西島秀俊 ほか
<スタッフ>
原案・脚本:金城一紀
音楽:得田真裕
チーフプロデューサー:福士睦
プロデューサー:枝見洋子 松本明子(AXON)
演出:猪股隆一 ほか
製作著作:日本テレビ
HP:http://www.ntv.co.jp/okusama/index.html

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文=citrus コラムニスト 河崎環