ネットやガイドブックにはのっていない! 温泉愛を感じる、本邦初「ひなびた温泉」50泉

ライフスタイル

2017/10/22

『しみじみシビレる!名湯50泉 ひなびた温泉パラダイス』(岩本薫、上永哲矢/山と溪谷社)

 世の中には多くの温泉本が出回っているのに、なぜか“ひなびた温泉”だけを紹介する本はなかった。ここ最近、大衆居酒屋がブームとなり、昭和レトロへの回帰など味があるシブい方向への流れがあるのに、“ひなびた温泉”だけが取り残されたまま…。

 というわけで、満を持して発売されたのが、『しみじみシビレる!名湯50泉 ひなびた温泉パラダイス』(岩本薫、上永哲矢/山と溪谷社)だ。

 本書は、「ひなびた温泉研究所」(以下、ひな研)のショチョー・岩本氏と副ショチョー・上永氏の2人が“ひなびた温泉”を実際に訪れ、取材した本書。北は北海道から南は九州まで、”ひなびた温泉”の情緒や人情そして名物など、シブさあふれる写真満載のガイドブックとなっている。また飾らない口調で語られる、その場所々々の面白エピソードや感じたことは、エッセイ本としても楽しめる。

 その中でも、“ひなびた”を通り越して“廃墟”に近いといった「那須湯本温泉・雲海閣」はインパクト大だ。電話予約をすると「ウチはボロボロの宿なんですよ。それでもいいですか?」と確認が入るそうだ。

 もともと崖下で“老松温泉・㐂楽旅館”として営業していたそうだが、30余年前に起きた火災で宿が焼失してしまったのだが、風呂場だけが残ったそうだ。その後、崖上に宿を再建し、崖下に残る風呂場を階段でつないだ。その階段の距離ときたら、かなりの長さがあるためとても不便なようだ。しかし従来の風呂場を残した理由は、風呂場に一歩踏み入れた瞬間にわかるという。青白い湯はかすかに緑が混じっているような不思議な色をしている。源泉は、那須湯本の硫黄泉「鹿の湯」と「奥の沢」の2種類。副ショチョー曰く、「浸かっていると体の悪いところがどんどん癒されてゆくようである」といい、それを裏付けるようなエピソードを披露している。

 この宿のボロボロな外観と、宿と風呂場を結ぶ長い階段のことを知らず、息子に連れて来られたおばあさん。宿の玄関先で、あまりのボロボロさに腹を立て、足が悪いことから長い階段に怒り、さぞご立腹だった様子。がしかし、あまりの湯の良さに3日間滞在し、曲がらなかった膝が曲がるようになったと喜んで帰ったとか。そんなお湯はつい長湯をしたくなってしまうのだが、抜群の泉質を誇るゆえに湯あたりには注意が必要だという。

 この宿のもう一つの特徴は自炊ができること。食材さえ持ち込めば宿の人が使っていた本格的な調理場で料理ができるのもこの宿ならではだ。

 といった“ひなびた温泉”の紹介の他に、懐かしさを感じる湯の花だらけの「蛇口」に、レトロな「マッサージチェア」といった数々のコレクションページは見ているだけでほっこりする。「ひな研放談」と称し繰り広げられる「ひなびた」と「さびれた」についての違い、温泉に行きつくまでの“不自由さ”と“イレギュラー”を楽しんでこそが"ひな旅”の醍醐味だと語り合うコラムは、”ひなびた温泉”の奥義を極めるものがある。

 “ひなびた”の定義を“せわしない現代の時間の外にあるもの”と位置づける「ひな研」。

 これからの温泉シーズン、いつもと違った“ひな旅”で、味わい深いゆる~い時間を過ごしてみませんか?

文=澤 ゆか