本好きの知的欲求を満たす一冊! ピザ職人、編集長、帽子作家、古書店主の「本棚の本」から見える人生
更新日:2017/11/11
他人の家の本棚はとっても不思議におもしろい。私が読書好きの友人の自宅に初めてお邪魔したとき、「恥ずかしいからあまり本棚を見んといて」と言われたことがある。理由を訊くと「丸裸の脳内を覗かれているみたいでソワソワするから」とのことだった
しかし当の本人は私の家に入ると真っ先に私の本棚を物色する。彼が矛盾しているように思うのだが、その気持ちはどこか分かるような気もする。本は思わぬかたちで人の脳の構成要素となっていき、それは本人にとっては無自覚な場合もあるからだ。
だからこそ他人の本棚を覗くという行為には奥深いたのしさがあり、やめられない。そんな本好きたちの知的欲求を叶えてくれる本が10月に出版されたのでご紹介したい。『本棚の本』(赤澤かおり/KTC 中央出版)である。
WEB連載を書籍化した本書。編集者である著者が敬愛する、古書店、居酒屋、デザイナー、カメラマン…計19組の生業を持つ仕事人たちの本棚を訪ね歩く。著者が取材前、各人に対してお願いしていたことは「好きな本を10冊程度準備しておいてください」ということと、「本棚の整理をしないでください」ということだけ。それぞれの人柄と仕事ぶりを知る著者が引き出す、本と人生の物語だ。仕事人たちの丸裸の本棚から引き出したおすすめの本は300を超える。その一部を紹介したい。
■『バガボンド』(井上雄彦/講談社)、―亀井良真(イタリア料理店オーナーシェフ)
「単なる剣豪マンガではなく、人は何のために生きるのか、という展開が好きな理由」と亀井さん。特に料理を作るときの心の有り様に共感できることがたくさん。
■『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(村上春樹/新潮社)、―池水陽子(スタイリスト)
「村上春樹好きではあるけど、これは特別。もう何度読んだか数えきれないくらい読んでいる。発売直後にハードカバーで購入。重たいけれどこの感じがいい」
■『作家の酒』(コロナ・ブックス編集部:編/平凡社)、―伊藤耕太郎(ピッツェリア店主)
井伏鱒二、中上健次、山口瞳、池波正太郎、吉田健一などといった小説家たちによる酒にまつわる文章と好きな酒やつまみのアンソロジー。この本を肴に酒が飲める。
■『レヴィナスと愛の現象学』(内田樹/せりか書房)、―バッキ―・イノウエ(漬物店・居酒屋店主 文筆家)
「これは哲学書。とにかく難しい。だからさらっと流して欲しいなぁ、笑。だってな、いつも寝なしに途中で終わってしまって、また読み返すくらいのもんやから」
本書ではおすすめの本の紹介とともに、それぞれの仕事人たちの本棚が普段のまま写真に収められている。その本棚の有り様もまた十人十色だ。本が“大量に刺さった”ようなワイルドな本棚や、丁寧な暮らしを思わせるインテリアのような本棚など、本棚にも個性がある。各人の人柄を存分に引き出したインタビューを読み進めると、仕事人の個性と本棚の個性との相関関係が見えてくるのもまた面白いところである。
文=K(稲)
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