宮崎あおい×向井理主演映画化原作『きいろいゾウ』――夫婦生活に陰りが…気づけそうで気づけない本当の「愛」とは?

文芸・カルチャー

2017/11/11

『きいろいゾウ』(西加奈子/小学館)

 「夫婦の愛」が一つのテーマとなっている『きいろいゾウ』(西加奈子/小学館)は、映画化もした人気作だ。

 西加奈子さんの作品の中では、独特の世界観でありながら、多くの人の共感を得られる、分かりやすいテーマだと思う。(その分、下手に書くと薄っぺらくなるので、難しい主題でもある)。『きいろいゾウ』は、西加奈子さんの小説を、初めて読んでみようとしている方におススメしたい一冊だ。

 主人公は都会から田舎に引っ越してきた新婚夫婦。「ムコ」と「ツマ」。どちらも本名からとったあだ名で、お互い「ムコさん」「ツマ」と呼び合っている。ムコさんは小説家。温厚でツマ想いの優しい男性。ツマは不思議な世界観を持つ、素直でちょっと子供っぽい女性。俗っぽく言えば「不思議ちゃん」だろう。「人より心臓が小さい」という身体的なハンディはあるが、明るく元気。

 序盤はそんな2人のほっこり温かい田舎の新婚生活が描かれる。いつもチャック全開のアレチさん(老人)や凛々しい顔のメス野良犬のカンユさん。庭にフンをしていくチャボのコソク。登校拒否になり、都会からやってきた小学生(けれど、ツマよりよほど大人っぽい)大地くん。

 人も動物も交え、田舎での2人の生活は穏やかで微笑ましく、日常のちょっとしたことが大事件になったりして、読み心地よく進む。

 だが、そんな2人の生活にも、少しずつ「陰」がちらつき始める。読者は、温かい夫婦生活に垣間見える「陰」が気になりながらもページをめくり、遂にその「陰」が前面に押し出される時、ハッと息を飲むのだ。

 いつもツマを想い、優しいムコさんには、忘れられない恋人がいた。その恋人のため、ムコさんは一人、東京へと行ってしまう。

 夫婦の愛って、なんだろう? と思う。ときめきとか、性欲がかかわる「恋愛」の「愛」ではなく、夫婦の「愛」だ。支え合うこと、嫌いなところも受け入れられること、尊敬し合えること、自分を愛してくれること、信頼感、情(じょう)、もはや空気、……色々、あると思う。

 本作では、簡単に言ってしまえば「必要なもの」となる。ムコさんはずっと、過去のとある出来事をきっかけに「僕の中身」を失くしたまま、人生を送っていた。そのせいで、ツマを失うことを怖れていたのだが、それも無意味なことだと気づく。

 ツマがそこにいること、人生のように、日常のように、そこにただいてくれるだけで、安心して眠りにつけるのだということ、堂々と、幸せだと笑っていられるということ。

 ツマに出会えたことで、やっと僕の人生はひとつになった。意味を持ちはじめた。

「失ったら困る存在」でもなく、「依存すること」とも違う。夫婦の愛は、自分の人生で、ただ「必要なもの」なのだ。実にシンプルで、深い。さて、そんなムコさんの「愛」をツマはどのように受け止めるのだろうか? そちらは、本作を読んでいただきたい。

文=雨野裾