愛が溢れる海の物語『くじら島のナミ』。小説版『22年目の告白』著者待望の新刊

小説・エッセイ

公開日:2017/11/17

『くじら島のナミ』(浜口倫太郎/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 島みたいに大きなクジラ。サッカーコートくらいの大きさのそのクジラは、海の仲間たちからジマと呼ばれている。「くじら島」のジマ。ある嵐の日、ジマは沈没する豪華客船からナミという人間の赤ちゃんを救い出し、その大きな背中の上で彼女を育てることになってしまう―。

 入江悠監督のミステリーサスペンス映画『22年目の告白―私が殺人犯です―』。20万部を超えるベストセラーとなった、その小説版を手掛けた作家、浜口倫太郎氏最新作の心温まるファンタジー小説『くじら島のナミ』(浜口倫太郎/ディスカヴァー・トゥエンティワン)をご紹介したい。

■大クジラのジマと人間の子・ナミの出会い

 物語は沈没する豪華客船のシーンから始まる。沈みゆく船から飛び出した救命ボートに3人の家族が乗っていた。父の名はルーク、母の名はエマ。そして彼らの愛しい女の子の赤ちゃん、ナミ。しかし海水は冷たく、荒波が他の救命ボートを次々と海中へとさらっていく。ルークとエマは自身の生命を諦め、それでも娘のナミだけは何としてでも助かってほしいと、薄れゆく意識の中で切に願う。そんな最中にやって来たのがクジラのジマ。母親のエマは最後の力をふり絞り、ジマに最愛の娘を託した。そしてエマは、冷たくて暗い海の中へと沈んでいった。

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■素敵な海の仲間たち

 のんびり屋のマカロンをはじめとしたクジラの仲間たち、愉快なカモメのモメタ、大男の漁師トシッチ。ナミはそんな楽しい海の仲間たちに囲まれ、すくすくと育っていく。人間の赤ん坊を育てるという初めての体験に悪戦苦闘するジマを、仲間たちが献身的にサポートする描写が印象的だ。「海の主」である頼れるジマと、少し抜けている部分があるものの愛すべき性格を個々に持った優しい仲間たちのおかげで、ナミは優しく元気でたくましい5歳の女の子に成長する。そんな楽しい時間に時折見せるジマの暗い表情に皆それぞれ違和感を抱くが、その理由を訊くことができないまま、ジマ率いるクジラの群れが「北の海」に向かう日がやってくる。

■シャチとの激闘

 普段は平和な南の海で暮らすクジラたち、しかし彼らは北の海に向かわなければならない。豊富なオキアミを食べるためだ。北の海に向かうのは容易ではない。子クジラを狙うシャチの群れが待ち構えているためである。子クジラを守るために死闘を繰り広げるジマ。そんなジマからナミは弱肉強食の海の世界の仕組みを学ぶ。このシーンは実に圧巻だ。そしてジマが胸の内に秘めた「忘れられない過去」も徐々に明らかになっていく。

 ここから先は、ぜひ手にとって自分の目で確かめてほしい。全体を通して心温まるストーリーだが、種族を超えた生物としての愛や過酷な環境に立ち向かうジマたちの勇敢さなど、私たちが学ぶべきことも多そうだ。

文=K(稲)