私の過去は「母」になるためにあったんだろうか? 日々子育てに奮闘するママとパパへ…元女神の独白が共感を生むあたらしい子育てマンガ『元女神のブログ』

マンガ

更新日:2017/12/11

『元女神のブログ』(本間 実/講談社)

 講談社の『モーニング』編集部と『FRaU』編集部がタッグを組み、子育てに奔走するパパママに向けて今年5月に創刊された電子雑誌「ベビモフ」(旧名称『BABY!』)。「子育てはカラフル!」を合言葉に日常を彩るマンガやよみものを無料で提供している同誌。「子育てを決めつけない、新しい形を否定しない」をモットーに、はるな檸檬、南Q太、宮崎夏次系など、ひとくちに育児がテーマといっても多種多様な切り口の作品がならぶ。なかでも注目なのが11月22日に単行本1巻が発売された『元女神のブログ』(本間 実/講談社)だ。

 泉の女神として200年生きてきたが、人間と恋に落ちて脱女神、一児の母となった藤沢いづみ。人気ブロガーである彼女と、その周辺の元○○(人魚とか)なママたちを描いた本作はファンタスティックなのにリアリスティックな異色の育児マンガだ。

 第1話は、いづみさんの義父から放たれた一言から始まる。「オレと初めて会ったときの神々しさがなくなったなぁ」。最愛の夫と出会わせてくれたのはこの義父で、女神をやめた今の日常にはなんの不服もない。毎日が幸せで、満たされている。だけどこの一言が、いづみさんの心にずっとずっと引っかかる。

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「私は愛しい娘の『母』になるために200年という時を過ごしたのでしょうか?」「昔の自分の方が『自分らしかった』と感じるのはなぜでしょう。」



 こんなことをブログに書く自分は母失格なのかもしれない。落ち込むいづみさんを、ママ友はそんなことないと抱きしめ、コメント欄には共感の嵐がわく。そしておそらく、読んでいる読者の心にも。

 元○○。その肩書は、女神や人魚などの人外種でなくとも、親となった人なら誰しも持つものではないだろうか。とくに、家庭に入った女性ならば。時間もお金も自由に自分だけのために使えた、あの頃。誰かと過ごす華やかな時間も、選択する一人の時間もすべて「私」だけのもので、自分が自分である充実感に満たされていた。もちろんそれが少しさみしかったりもする。自分は自分のためにしか生きていない、誰かのために生きたい、家族をつくりたいと願って結婚する人も多い。だけどいざ、妻になり母になってみるとふと見失ってしまう。あれ、「私」はどこへいっちゃったの?

 輝きを失ったと言われてしまったいづみさんと、似た言葉を投げかけられた経験のある人も、多いんじゃないだろうか。たとえば「せっかくキャリアを積んだのにもったいなくない?」とか。忘れたわけじゃないし、後悔しているわけでもない。それでもふと、かつての自分が恋しくなる。自信をもって選んだはずの道が少し、ぬかるみ、沈む。本作はそんなママたちの迷いにそっと寄り添ってくれるのだ。

 子供を産んだ今だからできることがある、と助産師の仕事に復職したいと願うヴァンパイアのママ。子供が大きくなって余裕ができてからのほうがいいのかな、と迷っていると、彼女の母が言う。「時期が整うのを待っていたら始めることなく終わっちまうぞ」。人魚ダンサーの道を絶って人間となり結婚したママは、現役人魚モデルとして活躍し続ける親友を羨む自分を止められない。だけどそれは、親友にとっても同じだった。

 選ぶことは、捨てること。すべてを手に入れることはできないから、人はifを想い続ける。だけどそれは今を否定することじゃない。それぞれの選択を慈しむために、そっと背中を支えてくれる、そんな作品なのである。

文=立花もも

(C)本間 実/講談社