我が青春のブラック企業――『天国に一番近い会社につとめていた話』

社会

2017/12/14

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「警察官として不適格!」。
 上司にそう告げられた18歳の私は、ずっと憧れだった警察官を半年で去る事になる。
「これからどう生きればいいのか?」。
 当時の世は就職氷河期。行き場のない私に手を差し伸べてくれたのは、『邪悪なブラック企業』だけだったのです……。私の青春は全てここにあったのです。

 著者ハルオサンのクソ人生を、シュールなイラストと共に描くブログ(「警察官クビになってからブログ」)が、『天国に一番近い会社につとめていた話』(KADOKAWA)としてついに書籍化! 給与5万円、元犯罪者だらけ、厳しいノルマに圧倒的な激務……、そんなブラック企業に勤め続けていた理由とは――。

「社長の恩を仇で返しやがって!」
 私が数年努めた会社を去る時に、先輩に胸ぐらをガッと掴まれて、言われた言葉がコレでした……。

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『恩』とは一体何でしょうか?

 私達が働く理由は、『働くと報酬がもらえるから』。
 基本的にはそうだと思います。
 しかし、私が勤めた『ブラック企業』は、従業員にその『労働見合った報酬』を、出来る限り与えたくありませんでした。
 そこで用意されたものが、『恩』と呼ばれるようなものでした。

「オレはお前たちを家族だと思っている」。
 社長は月に何度も飲み会を開き、従業員に熱い言葉を投げかけるのです。
 時には天国に旅立った従業員の名前を出して、
「アイツの分までがんばろうぜ!」と涙ながらに話すのです。
 自分が殴って罵倒したせいなのに……。

 それでも従業員はみな、涙を流してその話を真剣に聞くのです。
 今考えるとゾッとする異様な光景でした。

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 社長と私達はお金ではなく、特別な感情で結ばれていたのです。
 だからどんなに給料が安くても、休みがなくても、ノルマが厳しくても、
 たとえ殴られようとも、法を犯そうとも、私達は命をかけて働き続けたのです。

……しかし会社も、従業員に無理を押し付けるだけ、というワケではありませんでした。
 特に部長は、従業員と共に燃え盛る火の中に飛び込んでくれました。
 我が社は営業会社でした。
 営業先が誰であっても関係ありません。
『宗教団体』であろうが、『特殊な団体』であろうが、金になるとわかればどこであろうと、一緒にガンガン売り込みにいってくれる部長。
 クレームを起こせば一緒に頭を下げてくれる部長。

「オレと一緒に死んでくれ!」。
 そう言葉で言われたワケではありませんが、「どこまでも付いていきます!」
 とそんな気持ちにさせる上司でした。

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 ハハッ……、変な話ですよね。
 でもこれが、『快感』だったりもするのです。
 誰かに付き従うっていうのは気持ちが良い。

「契約が獲れないのは何故だ? お前が心底追い込まれてないからだ、今から限度額まで金を借りてこい!」
 こんな無茶を言う部長も好きでした。

「大きな借金を背負えば必死に働くだろ?」。
 部長はそんなムチャクチャな話をするのです。

(冗談だろ? そんな事をさせるのか?)

 私はそんな事を思いつつも、心のどこかでは、
(ああ~部長ってスゴイなぁ……)
 そんな風に思ってしまうのです。

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 それが常識の限界を超えれば超えるほど、快感はより高まり会社と私達の関係は、より強固になっていったのです。

 強烈な会社でした。
 まるで社長を中心とする一つの宗教。
 殴られても、安い給料でも、休みがなくても、みな身を削りながら何年も働き続けました。
……でもその洗脳もいつかは解けるのです。
 トコトン洗脳されている人間が目を覚ます時、それってどんな時だと思いますか?

 それはその強烈な洗脳を超える程の、『衝撃的な出来事』が、自分に襲いかかった時だったりもします。

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 長年の無理がたたり精神を壊した時。
 重い病気にかかった時。
 奥さんから切り出された離婚。
……などなど、……色んな人がいました。
 私もそうです。
 そして気づいた時にはもう手遅れでした。
 ブラック企業に洗脳されている人間は、周りの事に無頓着になっています。

 自分でも気づかないうちに、色んなモノを失っているのです。
……ああ……いや……、『ブラック企業に搾取されているんです』。
 そうでしょう?

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 限界まで従業員から搾取した結果、「オレたちは家族だ!仲間だ!」
 そう言いながらも、稼げなくなった社員の首を簡単にハネてしまうのです。
 休みもなく無理な仕事を会社が押し付け続けて、働けない稼げない人間にしてしまう事もあるのに。
 あまりにも残酷じゃないですか?
 元はみんな同じ人間なのに……。

 しかしこうやって、勤めていたブラック企業の事を思い出すと、蘇るのは楽しい思い出ばかりです。

 ブラック企業を肯定するつもりは、サラサラないのですが…
『本当に楽しかった』。

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 学生時代に人間関係を持てなかった私にとって、ブラック企業こそが私の『青春』でした。友達も家族も生きる意味さえも全て、ブラック企業が私に与えてくれたのです。

 本書の中にはクソブラック企業に対する、愛と憎しみが渦巻いております。
 よろしければ手にとって頂ければ幸いです。

文=ハルオサン