眠る前に読むべき本!? 森見登美彦初のエッセイ大全集で寒き夜に素敵な読書体験を
2017/12/17
「“〇〇の時に読むための本”というものがあっても良いのではないか。例えば、飛行機で東京からニューヨークへ移動する間に読むための本であったり。本来、読書とはそういうものだ」円城塔氏の芥川賞受賞作『道化師の蝶』(円城塔/ 講談社)には、このような趣旨の会話が登場する。
それまで私は「読む本とそれを読む時の環境との相性」についてあまり深くは考えたことがなかったが、なるほど確かに。よく考えてみると、そのような読書時の状況にジャストフィットする本というものはあるかもしれないし、あって欲しいとも思った。
ならば、“○○の時に読む本”という観点を用意すると、もっとも多くの人が求めるであろうものは、一体何だろう。「通勤電車の中で読む本」や「食後の一服時に読む本」なんてものが浮かび上がる。でもやはり、多くの読書家たちが欲する本は「眠る前に読む本」なのではないだろうか。
今年11月22日刊行の『太陽と乙女』(森見登美彦/新潮社)は、「眠る前に読むべき本」として出版された森見登美彦氏初のエッセイ大全集だ。著者による前書きの一部をここにご紹介したい。
「眠る前に読むべき本」
そんな本を一度作ってみたいとつねづね思ってきた。
哲学書のように難しすぎず、小説のようにワクワクしない。面白くないわけではないが、読むのが止められないほど面白いわけでもない。実益のあることは書いていないが、読むのが虚しくなるほど無益でもない。(中略)長いもの、短いもの、濃いもの、薄いもの、ふざけたもの、それなりにマジメなもの、いろいろな文章がならんでいて、そのファジーな揺らぎは南洋の島の浜辺に寄せては返す波のごとく、やがて読者をやすらかな眠りの国へと誘うであろう。
あなたがいま手に取っているのはそういう本である。
この本は、どこから読んでも良い。ラクな気持ちで睡眠前の幸せなひと時が過ごせる優れモノだ。ラクだとはいってもやはりその内容はおもしろく、著者の読書、こだわり、ぶらぶらや日常についてのエッセイが詰まっている。森見氏といえば『四畳半神話大系』だと考える人も多いだろうが、本書にはそんな著者の“四畳半エピソード”もしっかりと収められており、こちらもやはり面白かった。また最終章には、台湾の雑誌『総合文学』で2年間にわたり掲載された全24回のコラム「空転小説家」も収録されており、こちらは本邦初公開となる。その内容は「スランプについて」、「東日本大震災について」、「物語の作り方について」、「京都を書くことについて」など、どれも非常に興味深いものばかりだ。
布団との距離が一気に縮まるこの季節。眠る前に本書を手に取ってみてはいかがだろうか。この冬の夜のお供として、ぜひおすすめしたい1冊だ。
文=K(稲)
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