人生の成功の鍵を握るEQ(心の知能指数)って!? 国際社会で生きていく上で英語よりも大切なこと…

出産・子育て

公開日:2018/1/11

『その「英語」が子どもをダメにする(青春新書インテリジェンス)』(榎本博明/青春出版社)

 2008年度から小学5、6年生を対象に外国語活動として始まった小学校の英語教育は、2011年度に「小学5年生から必修」となり、さらに2020年度に向けて「小学3年生からの必修化」「小学5年生からの教科化」が完全実施される予定だという。

 つまり、小学5~6年生では、これまでの外国語活動にかわって新たに英語が教科となるわけだが、その背景には、少子化時代を見据えた英語塾の加熱する営業戦略とも相まって、「いまの時代、英会話くらいできるようにならないと」「英語を学ぶのは早ければ早いほうがいい」などといった根強い親世代の思惑があり、加えて2020年の東京オリンピックに向けて英会話を強化しようという動きもそれに拍車をかけているようだ。

 だが、本書『その「英語」が子どもをダメにする(青春新書インテリジェンス)』(榎本博明/青春出版社)では、心理学博士である著者がそうした傾向に待ったをかけ、英語の早期教育や英語熱の背後に潜んでいるさまざまな問題点を浮き彫りにすると共に、子どもの知的能力について本当に大切なものとは何かを明示する。

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 まず、わが子にできるだけ早い時期から英語を習わせたいという親自身の問題について、著者は次のコンプレックスなどがあると指摘する。

(1)親自身が英語が苦手で、英語ができる人はすごいと思っている。
(2)英語の成績は良かったが実際の英会話はうまくできず、わが子には何としても英会話ができるようにと願っている。
(3)親自身、英会話が得意で、そのため優越感を持っており、わが子にも英会話が得意になってほしいと思っている。

 こうした考えの前提には、「英会話ができる」=「勉強ができる」という根拠のない思い込みがあるという。著者はさらに踏み込んで、英語の授業が英会話中心になっていることの根本的な問題として、英会話学習は総合的に頭を鍛える勉強ではなく、将来の人生において役に立つ知的トレーニングにはなり得ないと断じている。

 要するに、小さいうちから英会話を覚えると、日本語力が身につかず、読解力・考える力が養われないだけでなく、肝心の英語力も向上しないし、人生の成功の鍵を握るEQ(心の知能指数)も養われない、というわけだ。

 確かに、単なる言語の暗記反復学習だけなら、AIを使った翻訳機に任せた方がよほど効率がいいし、AIで翻訳・通訳が不要になるであろうこれからの時代に、「子どもに本当に身につけさせたい能力とは何か?」が見落とされたままで、英会話による早期教育が加速されれば、日本語で十分知識を獲得し、総合的な人間力を高められるせっかくの機会を失いかねない。

 著者はまさにその点を問うていて、勉強というものは外国から来た観光客に道案内をするためにするようなものではないとし、「英語による英語の授業」は世界に逆行することや、英語がペラペラのアメリカ人が国際舞台で活躍しているわけではないこと、世界的ビジネスリーダーたちが何を重視しているか、等々についても根拠を示して説明している。

 大切なのは、母国語の確実な習得とその運用から得られる論理的思考、というのが著者の主張だが、では、多くの日本人が外国人としゃべるのが苦手なのは英会話力とは関係ないのだろうか?

 著者によると、その理由は文化的に刻まれている心理的要因だとしている。つまり、欧米人は自己主張をよしとする文化なのに対して、日本人は相手の立場を尊重し、自己主張を控えることをよしとする文化であり、それゆえ外国人としゃべるのが苦手なのであって、英会話が苦手だからというわけではない、というのだ。

 さらに、本書では、英語重視から国語重視に転換し始めた中国や韓国の例に、母語、国語力の有無がすべての勉強に影響を与え、思考力や知的能力を高める鍵であることを多面的に説明。日本語の多様性が豊かな発想を生み、それこそが日本人の強みであるとしたうえで、AI時代に求められる能力としてEQを挙げている。

 これからのAI時代には、共感や気配り、思いやりの心を育てていく必要があります。これはまさにEQ(Emotional Intelligence Quotient=心の知能指数)を高めていくということです。〈中略〉

 EQは対自能力対他能力に分けられます。いわば、自分の感情を理解し、それをコントロールする能力と、他人の感情を理解し、それに対応する能力を指します。〈中略〉

 子どものしつけや教育の中で、忍耐力や粘り強さ、共感性などを身につけさせることが大事だとされてきましたが、それらはこのEQに含まれます。

 実際にEQが高い方が、ストレス対処力が高く、学業成績が高く、職業的成功度が高く、社会適応がよく、人生の幸福感が高いことなどが報告されています。

 EQの基礎は小さい頃に形成されることから、幼児~児童期には特に日本語の習得に加えて友だちとの遊びや自然体験が大事という。

 周囲の大人たちの思惑や親のコンプレックスによって目先の利益を追う前に、子どもにとって本当に大切なこととは何かを冷静に見きわめるためにも、本書を一読してみてはいかがだろうか。

文=小笠原英晃