「地底アパート」シリーズ第3弾!「心」を持つアンドロイドは何を思うのか?

小説・エッセイ

公開日:2018/2/7

『地底アパートのアンドロイドは巨大ロボットの夢を見るか』(蒼月海里/ポプラ社)

 世の中に一風変わった物件は数多くあろうが、こんなにも奇想天外なアパートは他にはないだろう。「地底アパート」シリーズ(蒼月海里/ポプラ社)は、「住人の業によってどんどん深くなる」異次元アパート「馬鐘(バベル)荘」での日常を描いた大人気ノベルシリーズ。蒼月海里氏といえば、これまで「幽落町おばけ駄菓子屋」シリーズ、「幻想古書店で珈琲を」シリーズ、「深海カフェ 海底二万哩」シリーズなどにおいて、人間と異世界との交流を描いてきたが、「地底アパート」シリーズにおいてもそれは同様。不思議な「異文化交流」に時に笑わされたり、時に泣かされたり、胸がぽかぽかとあたたかくなる物語シリーズだ。

 主人公は、ゲームのしすぎで家から追い出された大学生・葛城一葉。妹が手配してくれた池袋の一角にある賃貸アパート「馬鐘荘」に住むことになるが、そこでは、個性的な住民ばかりが暮らしていた。大家で自称悪魔のメフィストフィレス。歴史を変えるために未来から派遣されてきたアンドロイドのマキシ。モデルの仕事もしている女装男子・加賀美薫。偉大な錬金術師・ファウスト…。深度ごとの地層年代が出現し、マンモスや恐竜が現れる「馬鐘荘」では事件が起こるのが日常茶飯事。閉じたはずの古代空間との扉が開かれてしまったり、地底アパートから逃げ出したトリケラトプスが池袋の街中を荒らしてしまったり…。毎日のように起こる大事件の数々に一葉を始めとする「馬鐘荘」の住民たちは巻き込まれることになる。

 シリーズ最新刊『地底アパートのアンドロイドは巨大ロボットの夢を見るか』でも、一葉たちはトラブルに巻き込まれる。地層年代白亜紀のモササウルスを夕飯にしようと、一葉はファウストとマキシとともに地下を探索中、モササウルスに襲われ、絶体絶命のピンチに見舞われる。

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 そんな彼を救ったのは、突如現れた美青年・エクサだった。一葉に出会った当初、エクサは一葉の大学に来ている留学生を名乗っていたが、実は正体は未来から来たアンドロイドだったのだ。誰に対しても人当たりは良いエクサだが、同じアンドロイドのマキシには対抗心を燃やし、ことあるごとに勝負をしかけてくる。「心」が組み込まれたアンドロイドであるエクサは、どこか人間に近いようだ。

 しかし、一葉からすれば、彼が美しい笑顔の裏で、何か企んでいるように見えて仕方がない。一体、胸のうちでエクサは何を思っているのか。兵器を搭載しているらしい彼の真の目的とは何なのか。

「人間って、自分勝手じゃないですか。生き物を食べ尽くしたり、捕らえて見世物にしたり、皮をはいだりして。そのために生き物が滅ぶことだってあるのに、生きてていいのかなって思って」
「業があってこそ、人間は生きられるものなのさ。腹が減った時に何かを食べたいと思うだろう?だがそれは、自然がもたらした命の断片だ」
「業が無いと、生き延びられないってことです……かね」

 異世界のものたちとのふれあいのなかで、次第に「人間」という存在が見えてくる。業によって、成長してこられた人間の姿がつまびらかになる。

 毎度とんでもない事態に巻き込まれながらも、助け合って問題を解決していくアパートの住民たちの姿に、胸が熱くなる。異世界のものたちと確かに結ばれていく絆。こんな不思議なアパートで暮らすのは苦労も絶えないだろうが、何度でも垣間見たくなる。

文=アサトーミナミ