きっかけはシンナー少年。居場所のない子どもたちに40年間食事を提供し続けた、広島の“ばっちゃん”

社会

2018/2/20

『あんた、ご飯食うたん? 子どもの心を開く大人の向き合い方』(中本忠子/カンゼン)

 世界が狭い子どもにとって、「家庭」、そして「親」という存在はとても大きい。一般的に非行に走った子どもを非難しがちだが、その子の境遇を探ってみると、自分がその子の立場でも非行に走らないとは言い切れない場合も多々ある。家庭環境というのは、それだけ人を追い詰める原因になり得る。そして問題のある家庭で育った子どもは周囲に溶け込めず、社会でも孤立しがちだ。

『あんた、ご飯食うたん? 子どもの心を開く大人の向き合い方』(中本忠子/カンゼン)は、そんな家にも社会にも受け入れてもらえず行き場のない子どもたちに40年近くも居場所を与え、ご飯を食べさせてきた広島のばっちゃん・中本忠子さんの実体験を記した本。中本さんが開放している「基町の家」に来る子どもたちの大半は、家庭に何らかの問題を抱えている。親が刑務所に入っていたり、薬物中毒だったり、ネグレクトだったり、普通では考えられないような環境での生活を強いられている。そういった子どもたちが、食べるものもない状態で、本当に困った状態で中本さんに助けを求めてくるのだ。

 中本さんは、元々は末の息子のPTA役員として活動していた一般の人で、特別な勉強をしたわけでも、資格を持っているわけでもない。役員として補導された少年を保護者の代わりに迎えに行ったりしているうちに、保護司をやってみないかと誘われて、保護司として働くことになったのだという。そしてその時に受け持ったシンナー少年との会話で、自分がご飯を食べさせてあげれば、非行に走るのを防げるのでは、と食事を提供するようになったそうだ。そのシンナー少年は、家にご飯が食べられる環境がなく、お腹が空いていたのだ。彼は中本さんのご飯を食べるようになって、あっという間にシンナーをやめた。

 そんな中本さんは、この40年の間に200人以上の子どもにご飯を食べさせている。最初はトラブルも多く悩みが尽きなかったそうだが、今では子どもたちを信じてどっしりと構えている。子どもたちの境遇や個人的なことを中本さんから聞くことは、一切ない。否定もしない。ただただ子どもたちの話を聞き、受け入れる。中本さんのその姿勢が、子どもたちの傷ついた心を癒し、表情を明るく変えていく。

 本書の中には、リアルに子どもたちと付き合ってきたからこその言葉も多い。例えば、「子どもが好む味付けに」では、味を濃いめにつけている、とある。一般的に施設等では、健康のために薄味にして好き嫌い関係なく食べさせようとし、それを良しとしている場合が多い。しかし中本さんは、まずは美味しく食べてほしい、嫌な記憶にはしたくない、と子どもたちが食べたい味で提供している。嫌いなものを無理矢理食べさせたりもしない。

 また、大人たちの「一緒にやろう」という積極性も非常に大事なのだという。子どもは、「こういう支援センターがあるから行きなさい」では絶対に行かない。一緒に行って、その子が相手先のことを信頼できるまで一緒に話を聞くことが大切なのだそう。これは大人が思っている以上に大事なことらしい。たしかに「行け」と言うのは簡単だが、初めての場所というのは、行く側にとっては大人でも勇気がいるものだ。

 この『あんた、ご飯食うたん? 子どもの心を開く大人の向き合い方』には、机上の空論ではなく、中本さんが実際に子どもたちと関わってきたからこそ言える「現実」だけが詰まっている。そして、そこから導き出した子どもへの接し方も紹介されている。親だって、恵まれた環境で育ってきたとは限らない。子どもとどう接したらいいのかが分からない、という親もたくさんいる。でもどこかで負の連鎖を断ち切らなければ、苦しい環境は延々と続いていく。今、少しでも子どもとの関係に悩んでいる人、自分の心の中を探ってみたい人に、ぜひとも本書をオススメしたい。中本さんの経験、思いを辿ることで、きっと何かが見えてくる。

文=月乃雫