婚約したからって結婚するとは限らない? 群ようこワールド全開の『婚約迷走中』

文芸・カルチャー

2018/3/5

『婚約迷走中』(群ようこ/角川春樹事務所)

 おだやかな味のスープとサンドイッチの店を営むアキコの日常を描く人気シリーズ「パンとスープとネコ日和」。その第4弾である『婚約迷走中』(群ようこ/角川春樹事務所)は、アキコの頼れる相棒で働き者の体育会系女子「しまちゃん」のお話。婚約中だというのに、恋人と過ごすより、家でネコと昼寝したいという、お相手にツレない態度のしまちゃんを見守るアキコの毎日とは?

 本書の主な登場人物は、アキコとしまちゃん、アキコの店の向いに古くからある喫茶店のママさんだ。シャッター通りといわれる「商店街」も多い中、インスタ映えする2000円のかき氷店に行列ができたり、チャーハンが有名な中華料理屋もオープンしたりと、ここの商店街は賑わっているようだ。アキコの店は食堂を営んでいた母の店を改装したものであり、新旧よい感じに混在した商店街が目に浮かぶ。

 仕事熱心で真面目なしまちゃんは、婚約していながら、「一緒に住みたくない」「籍も入れたくない」という。結婚しても、自分にとって心地よい生活スタイルを崩したくないという、しまちゃんの気持ちに共感できる女性も多いのではないだろうか。「いつでも婚約破棄する準備あり」といった態度で、婚約中の女性の幸せそうな雰囲気は皆無のしまちゃんを、アキコは心配しているが、さて2人の結婚はどうなる?

 群氏の作品には、いつも美味しそうなメニューが出てくる。たとえば暑い夏の日のアキコの夕食、「その日の晩御飯は、しゃぶしゃぶ用の豚肉を湯に通して、ねり梅をつけ、サラダ菜に包んで食べるのとそうめんにした」。何てことのない料理なのに、食べたくなってくる。そしてアキコは、「無垢な二匹を眺めつつの食事は満足度がワンランクアップするよう」という。群氏のねこ描写は本当に癒される。どすこいねこ兄弟の「んごーふごー」という鼻息や、足の上に乗ってくる重量感が想像できて、つい頬がゆるむ。

 体に優しい食事をとり、ネコとの暮らしを楽しみ、よい距離感で人と付き合い、時間に追われない生き方をするアキコは、実は群氏なのではないだろうか。かつてアキコは料理本で社長賞をもらった編集者であった。群氏自身、編集者としてハードな日々を過ごしてきた時代がある。だからこそ何も起こらず流れるような日常が特別なものであり大きな癒しであることを、アキコを通して読者に伝えているのだと思う。しまちゃんの結婚の行方とともに、疲れた心に効く、のんびりとあったかい群ワールドを楽しんでほしい。

文=泉ゆりこ