SNSに心の安らぎを求めるのは危険!?——精神科医が説く「わかってもらいたい」病
公開日:2018/3/12
「わかってもらいたい」。人間は誰しも、一度は、そのように思ったことがあるのではないだろうか。SNSが急速に発達した今日では、自分の「わかってもらいたい」という気持ちをツイッターやフェイスブックにもらすことも多くなっている。わたしの友人の中にも、ツイッターの裏アカウントを使って自分の身の回りで起きたありとあらゆる出来事に対する不満や愚痴をふりまいている人がいる。その人もやはり「わかってもらいたい」のだ。
それでは、この「わかってもらいたい」という気持ちはどのように処理していけばよいのだろうか。この気持ちは、取り扱い方を間違えば、凶悪犯罪に巻き込まれてしまう危険性をも孕んでいる。本稿では、『「わかってもらいたい」という病(廣済堂新書)』(香山リカ/廣済堂出版)を通じて、「わかってもらいたい」という気持ちの謎とその処理方法を解き明かしていきたい。
■「わかってもらいたい」のは心の整理ができていない状態
本書の著者である香山氏は、30年以上も「わかってもらいたい」と思っている人と向き合う精神科医だ。精神科医の仕事は、患者の話すことを「無条件に」そして「積極的に」聞き入れることだ、と彼女は言う。ときには、カウンセリング中に「先生のことを殴りたい」と言い出す患者もいるそうだ。このとき、精神科医は積極的に「どうして殴りたいのですか?」と問うてみる。すると患者の方は、自分の中にある気持ちを明らかにしてくれる。「殴りたい」という気持ちはどこかへ去ってしまうことがほとんどなのだという。そして最後には、「先生、わたしのことわかってくださってありがとうございます」と言葉を残して帰っていくのだそう。
つまり、患者たちは、自分の気持ちを言葉にすることで心の整理をし、「わかってもらえた」という気持ちとともに新たな一歩を踏み出していくのだ。とすれば、「わかってもらいたい」という気持ちの根底には、心の奥底にある気持ちに折り合いがついていないということがあるのだろう。
■SNSは気持ちの整理には使えない!?
本書の著者は、また、SNSで本当の気持ちをあらわにすることは不毛だと説く。考えてみると確かに、SNSでは気持ちを「無条件」には聞き入れてもらえない。自分の発言が火種となってツイッター上で炎上でもすれば、わかってもらえるどころか、またひとつ不安要素が蓄積されてしまう。
また、インスタグラムを開いてみると、友人や知人の素敵な写真が目に飛び込んでくる。意識していなくてもついつい自分と比較してしまう。いくらか誇張されているとはいえ、元々は「あなたのことわかるよ」を期待して開いたのだから、これではますます気がめいる始末である。
だったら、SNSをやめてしまえばいいじゃないかという声も上がりそうだ。それがなかなかやめられない。ついつい共感を求めてSNSの大海原を旅してしまう。わたしも時折そういう気持ちでSNS上の大航海を始めてしまうのだが、文字通り取りつく島もない。
香山氏は長年精神科医として患者と向き合い、かつ、自分とも向き合う中で、「わかってもらいたい」という気持ちに対して折り合いをつけるひとつの結論に至ったという。それは、いろいろな人に少しずつわかってもらえばいいということだそうだ。自分のことを丸ごとわかってほしいと求めるほどに、自分のことをわかってくれる人は誰もいないと焦る。それならば「少しずついろいろな人にわかってもらえていれば、それを寄せ集めたものが私」と考える方がいいのかもしれないと思わせられる1冊だった。
文=ムラカミ ハヤト
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