役所広司主演映画『孤狼の血』原作。正義のためには手段を選ばない悪徳刑事が、今年のエンタメ界を席巻する!
公開日:2018/3/14
2018年5月、映画『孤狼の血』が全国公開される。「警察じゃけぇ、何をしてもええんじゃ」という挑発的なキャッチコピーを掲げた、白石和彌監督のハードボイルド・エンターテインメントだ。すでにネットでも予告編が公開されているが、悪徳刑事を演じる役所広司をはじめとして、危険な存在感をぷんぷん放つキャストが勢揃い、ギラついたビジュアルを作りあげている。今から公開が楽しみでならない。
その原作となったのが、柚月裕子の『孤狼の血』(柚月裕子/KADOKAWA)である。2015年に刊行された同作は、刊行直後からミステリーファンの熱烈な支持を受け、第69回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編部門)を受賞。さらに第154回直木賞、第6回山田風太郎賞、第37回吉川英治文学新人賞にもノミネート。各種ランキングでも上位に食いこむなど高く評価され、作者・柚月裕子の名をあらためて知らしめることになった。映画化を機にあらためて興味を抱いた人も多いと思うので、そのストーリーと読みどころを簡単に紹介しておきたい。
昭和63年、広島県呉原。かつて造船業で賑わったこの地方都市に、日岡秀一という若手刑事が赴任してくる。日岡が配属されたのは、呉原東署捜査二課・暴力団係。その名のとおり暴力団関連の事件を専門に扱うセクションである。
直属の上司にあたる大上章吾は、これまで数え切れないほどの手柄をあげてきた凄腕のマル暴刑事だが、外見や言動はヤクザそのもの。挨拶に訪れた日岡を「なに、ぼさっとしとるんじゃ! 上が煙草を出したら、すぐ火つけるんが礼儀っちゅうもんじゃろうが!」と怒鳴りつけ、「ええか、二課のけじめはヤクザと同じよ。平たく言やあ、体育会の上下関係と一緒じゃ。理屈に合わん先輩のしごきや説教にも、黙って耐えんといけん」と教育する。ヤクザの考えを知るには、日頃からヤクザのように生きるべし。それが大上のやり方なのだ。
目下、二課が追いかけているのは、ヤミ金組織・呉原金融の経理担当者失踪事件だ。呉原金融は新興ヤクザ・加古村組のフロント企業で、従業員の不自然な失踪にはどうやら組内のトラブルが関係しているらしい。加古村組と対立する団体・尾谷組と太いパイプをもつ大上は、この事件を糸口に加古村組を徹底的に追い詰めようと画策する。が、事態は思わぬ展開を見せ、やがて加古村組と尾谷組の間で抗争が勃発してしまう。これまで幾度となく暴力団同士の〝戦争〟に見舞われてきた呉原市は、またしても血の海と化すのだろうか……。
失踪事件捜査の進展を縦糸に、広島弁が飛び交う刑事と極道の人間ドラマを横糸にして描かれるストーリーは、骨太にしてスピード感満載。約450ページの長編ながら、ラストシーンまで一気に読者を連れてゆく。これまでの柚月作品同様、ミステリー的なサプライズもしっかりと仕込まれており、それが作品タイトルと響き合って、物語のテーマを浮かびあがらせるという構成も心憎いばかり。
そしてなんといっても素晴らしいのが、人間味に満ちた大上のキャラクターだろう。「世の中から暴力団はなくなりゃァせんよ」「わしらの役目はのう、ヤクザが堅気に迷惑かけんよう、目を光らしとることじゃ」とうそぶき、ヤクザとの親密な関係を保ち続ける大上。警察官としては到底許されない行為だが、その奥底には彼なりの揺るぎない正義があった。
他にも、古武士の風格をそなえた尾谷組組長・尾谷憲次、その片腕となって組織を支える若頭・一之瀬守孝など、魅力的なアウトローが多数登場。彼らと接するうち、警察官は法律を守るべきだという日岡の価値観も、少しずつ揺らいでゆく。この物語は、大上を中心としたピカレスク(悪漢小説)であると同時に、日岡の成長譚でもある。
映画では日岡を松坂桃李、一之瀬を江口洋介が演じる。ヤクザ映画の金字塔『仁義なき戦い』シリーズにインスパイアされた『孤狼の血』が(このことは著者がインタビューで明かしている)、果たしてどんな映画に生まれ変わったのか、映画ファンとしては大いに気になるところ。きっと原作同様、窮屈な世の中を吹き飛ばすような、エネルギッシュで清々しい作品に仕上がっているに違いない。
なお映画の公開に先立って、3月30日には続編『凶犬の眼』の刊行も決定。2018年前半は悪徳刑事がエンタメ界を席巻することになりそうだ。
文=朝宮運河
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