現代世界を正しく理解するための視点――不透明な時代だからこそ歴史を学ぶ

ビジネス

2018/3/20

『仕事に効く教養としての「世界史」II 戦争と宗教と、そして21世紀はどこへ向かうのか』(出口治明/祥伝社)

 50代にしてライフネット生命を起業、2018年から立命館アジア太平洋大学の学長へと転身した出口治明氏の『仕事に効く教養としての「世界史」』は、骨太な教養書でありながら増刷を重ねた(レビュー記事は【こちら】)。2年を経て出版された続編が本書『仕事に効く教養としての「世界史」II 戦争と宗教と、そして21世紀はどこへ向かうのか』(出口治明/祥伝社)だ。

 北朝鮮や中東をはじめとする地政学リスクの一層の高まり、米国トランプ大統領の誕生、移民問題とナショナリズムに揺れるEU(欧州連合)――。前著が出版された2014年以降だけでも、世界は不透明感に溢れる事象でいっぱいだ。本書で出口氏は言う。

将来、何が起こるかは誰にもわからないけれど、悲しいかな、教材は過去にしかない。

 そう、将来を正確に予測することは不可能だ。しかし人間が積み重ねてきた歴史を振り返り、そこから得た教訓をこの先に生かしていくことなら可能。本書では前著にも増して、現代世界を理解するための視点が強調されている。テーマには「激動の16世紀。世界史の流れはここから変わった」「エジプトはいつも誰かに狙われていた」「ルネサンスは神の手から人間を取り戻す運動だった」「知られざるラテン・アメリカの歴史」などが取り上げられている。

■正しいイスラム世界の姿を理解するために必要な知識

 現代世界を理解する上で喫緊の度合いが高いと思われる視点を、本書から2つ紹介したい。1点は「イスラム世界が歩んできた道」というテーマだ。

 破壊的なテロで世界を不安に陥れてきたIS(過激派組織・イスラム国)。中心勢力はかなり弱体化したとみられるものの、原理主義を背景とする欧米諸国への過激な反発は収まりそうもない。それらを背景に、イスラム教=危険な宗教、といった誤った認識が広まっている。しかし、もともとイスラム教は一神教としては例外的に、ほかの宗教に対して寛容だったという。「降伏して納税すればこれまで通りの生活は保証する」という統治方針こそがイスラム軍、イスラム教が広く受け入れられた背景だ。これには現実的な利益を優先する発想、商人の生み出したイスラム教ならではの理由もあったのだという。そうしたイスラム世界からISのような過激な組織が生まれてきた背景には、欧米中心主義の理屈による資源に絡んだ開発支配がある。
 歴史をきちんと理解しなければ、危険宗教という誤ったイメージだけが広まってしまうことになりかねない。

■2018年、第一次世界大戦終了から100年の節目という意義

 もう1つの視点は、2018年が第一次世界大戦終了から100年の節目ということだ。「ドイツを統一したプロイセンと第一次世界大戦」という章では、ドイツ地域の歴史を振り返る。ヨーロッパ内の複雑なせめぎ合いの中で、絶妙な外交バランスを保ち勢力を拡大したドイツ帝国首相・ビスマルク。そのビスマルクを更迭したドイツ皇帝ヴィルヘルム2世によって、第一次世界大戦への布石が打たれていった様子が概観できる。そして第一次世界大戦の戦後処理が、ドイツに対してあまりにも過酷な内容だったことが、その後のヒトラーの台頭、第二次世界大戦へとつながった――。本書では、前作同様に日本単体ではなく、日本を取り巻く世界全体の潮流とその歴史的な背景を学ぶことができる。

 また、本書には世界史をもっと知りたい、勉強したいと考える人たちのために、出口氏ならではのブックガイド33冊が取り上げられている。それぞれに魅力的だが、どれもなかなか本格的でもある。遠い昔に習った世界史の記憶を時折思い出しながら本書を楽しむためにも、例えば『もういちど読む山川世界史』(「世界の歴史」編集委員会/山川出版社)のような“教科書本”を、辞書代わりに手元に置いておくと便利だろう。
 なにもこれから受験勉強をするわけではない。楽しみながら、また今を理解するための歴史勉強なのだから、気軽に手にとって、興味が湧いたらその部分を深く読み、気が向いたら関連書籍にも手を伸ばしてみる――。そんなくつろいだ読み方でも十分だろう。

文=直

■ 第1作『仕事に効く教養としての「世界史」』(出口治明/祥伝社)のレビュー記事は【こちら】