力士ほどのグルメはいない? ちゃんこだけにとどまらない相撲めしの数々

食・料理

公開日:2018/3/25

『相撲めし-おすもうさんは食道楽-』(琴剣淳弥/扶桑社)

 あらゆるスポーツ、格闘技において「食生活」の充実は不可欠である。中でも、体重と体格が強さに直結する力士は、自然と大食漢になっていく。しかし、嫌いな物を無理やり食べても箸は進まない。口にする食材に興味を持ち、調理を愛することもまた、力士の強さを支えているのである。

『相撲めし-おすもうさんは食道楽-』(琴剣淳弥/扶桑社)は、そんな力士の食生活にスポットをあてた漫画&エッセイである。横綱・白鵬、鶴竜をはじめとする、現役力士や親方へのアンケートから、相撲界のグルメ事情が明らかになっていく。自らも元力士であり、ちゃんこ屋を経営した過去を持つ著者だからこそ描けた、リアルなエピソードが満載だ。

 本書を読んで分かったのは、相撲界には食通があふれていることである。相撲めしの代表格はちゃんこだが、その他のメニューにも力士たちはこだわりを持っている。たとえば、「琴バウアー」で人気の琴奨菊は大の丼もの好き。そこで、琴奨菊の夜食用に、所属する佐渡ヶ嶽部屋の名物・唐揚げを使った「唐揚げタルタル丼」が開発された。そもそも佐渡ヶ嶽部屋はご飯が美味しいことで有名で、レベルの高いちゃんこ長(部屋の調理番)がいたからこそ実現したメニューだったといえる。

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 相撲界のグルメ王と呼ばれる存在が二子山親方(元大関・雅山)。特に焼肉への情熱はとどまることを知らず、全国130軒もの焼肉屋に足を運んで常に美味しいメニューをチェックしている。自身も「焼肉みやび山」をプロデュースするほどだから、その焼肉愛は本物だ。今でも大関・豪栄道とともに焼肉屋めぐりを楽しんでいる二子山親方は、1日3、4軒もの店をはしごしたこともあったという。

 力士の栄養補給には「生魚」も重要視されている。美味しく生魚を食べられる寿司を好物にしている力士も多い。後援会や力士同士の交流でも寿司屋はよく使われるが、勢はほとんど東京の寿司屋には足を運ばないという。なぜなら、大阪にある実家「すし家の繁」こそが自分の寿司だと信じているから。勢にとって、寿司とは自分が頑張ったご褒美として口にできる食べ物である。勢が帰省する一番の楽しみは父の寿司であり、相撲のモチベーションにもつながっているのだ。

 外国人力士と日本食の相性も気になるところだ。モンゴル人横綱・白鵬は入門当初、体重68キロとかなりのソップ型(痩せ型)力士だった。そんな白鵬は体重を増やすためにとにかく白米を食べたという。今では自ら田植えした「白鵬米」を生産販売するほど、日本のお米に熱を入れている。

 一方で、白米が口に合わなかった外国人力士もいる。鳴戸親方(元大関・琴欧洲)は来日直後、「ご飯の味がまったく分からなかった」。牛乳をかけてかきこむなど工夫を重ねてみるが、一向に箸が進まない。見かねた佐渡ヶ嶽親方(当時)は大きなフランスパンを買ってきて琴欧洲に食べさせた。うれしくて夢中でパンにかじりついたエピソードからは、深い師弟愛が伝わってくる。ちなみに、日本食を克服した鳴戸親方の大好物は「日本のヨーグルト」。故郷、ブルガリア製より好みなのだという。

 本書では相撲部屋も訪問し、現役力士の食卓を写真つきでレポートもしてくれている。サプリメントや野菜で体調管理する白鵬の食事、食材のバリエーションと栄養バランスにこだわり抜く武蔵川部屋の食事など、相撲めしから部屋ごとの個性がにじみ出ていて興味深い。また、強豪力士が育つ部屋には必ずといっていいほど優秀なちゃんこ長がいる。相撲はいまひとつでも、ちゃんこの腕を買われて尊敬を集めている力士も少なくない。力士の強さとは本人の資質だけでなく、毎日の食事を気づかってくれる環境があってこそ伸びていくものなのだ。

文=石塚就一