グローバル時代が終焉!? 「ポスト・グローバル化」の原因と生き残る術を伝授

社会

公開日:2018/3/28

『哲学の最新キーワードを読む―「私」と社会をつなぐ知(講談社現代新書)』(小川仁志氏/講談社)

 みなさんは「グローバル時代」がいよいよ終焉を迎えつつあると聞くと驚くだろうか。様々な国や地域の人・モノ・情報が地球上を目まぐるしく行き来するのを見ると、にわかには信じがたいと思う人の方が多いだろう。しかし、実際のところ、アメリカ合衆国の保護主義や移民制限、また英国のEU離脱(ブレグジット)など、その兆しと思われる現象が世界では見え隠れしているのである。

『哲学の最新キーワードを読む―「私」と社会をつなぐ知(講談社現代新書)』(講談社)の著者である小川仁志氏は、時代の前進とも後退ともとれないこの現象を「ポスト・グローバル化」と呼んでいる。本稿では、この「ポスト・グローバル化」がどのような要因のもと起こっているのか、われわれはこの現象の渦の中で何をすべきなのかを見ていこうと思う。

■「ポスト・グローバル化」時代を規定する4要素

 われわれの生きるこの時代の定義を公共哲学の観点から考えたときに、4つの要素がからんでくる、と本書の著者、小川氏は説いている。“感情”“モノ”“テクノロジー”“共同性”の4つがそれである。本書では、これら4つの要素についてそれぞれ1つの章を充てて、現代社会とどのように絡み合っているのかを子細に分析している。

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「ポスト真実」(※)という現象やISの台頭に代表されるような世界宗教の再隆盛に注目すればわかるように、人々は理性を忘れ、“感情”に突き動かされるがままになっている。また哲学の世界では、思弁的実在論に代表されるような“モノ”主体の考え方についての話でもちきりだ。そして、AI(人工知能)をはじめとする“テクノロジー”がわれわれの生活を脅かすのではないかとまことしやかにささやかれている。はたまた、連帯のための思想といわれるプラグマティズムの興隆やシェアリング・エコノミーに象徴されるように“共同性”の拡大も目立ってきている。

 お気づきの方もいるだろうが、これらはすべて個人の理性の対極に位置するもの、つまり非理性的な力なのである。すなわち、われわれがこれまでコントロールしていた社会が、理性的存在としての「私」を排除するかたちで非理性的な力に乗っ取られつつあるのだ。

※ポスト真実:正しい情報よりも感情を突き動かされるような情報の方が世論形成に影響する状況

■「多項知」を活かして「私」と社会とをつなぎ止めよう

 小川氏は、“感情”“モノ”“テクノロジー”“共同性”についての知、つまり現代社会にあふれる理性を超える非理性的な知性のことを「多項知」と呼んでいる。「多項知」が「私」の外部に位置付けられるとするならば、この世界にとってそもそも「私」は必要ではなくなってしまう。しかし、われわれが「多項知」をうまく活用すれば、理性的な存在としての「私」だけでは解決できないような課題にも立ち向かえるようになる。

 わたしたちは、「ポスト・グローバル化」の時代において、理性偏重でもいけないし非理性的な力に社会を完全に委ねてしまってもいけない。理性的存在である「私」が時に非理性的なものの力を借りて、社会を進むべき方向へと導いていくことが大切なのである。

 本書は、“感情”“モノ”“テクノロジー”“共同性”のいずれの章もかなり読みごたえのある内容だった。しかし、これらの非理性的な力を生かすも殺すも、理性的な主体である「私」にかかっているということがわかっただけでも大きな意義がある。まさにこれからの時代に立ちはだかるとびらを開けるためのカギとなる1冊であった。

文=ムラカミ ハヤト