下北沢駅の小田急線と井の頭線の間に改札ができた理由

社会

公開日:2018/4/1

 前回のコラムで信用乗車を取り上げた際、3月17日にはJRグループだけでなく首都圏を走る小田急電鉄もダイヤ改正を行い、代々木上原〜登戸間の複々線化完成に合わせた大増発を実施することにも触れた。

 この改正では新型ロマンスカーが走りはじめたほか、下北沢駅のホームが1本から2本に増えたことも特筆されるが、その下北沢駅では、京王電鉄井の頭線との間に改札が設置されるという動きもあった。これまで改札がなかったのには理由がある。1933年に開通した井の頭線はもともと、小田急と同じオーナーが経営する帝都電鉄が運行していたのだ。だから下北沢駅の乗り換えに改札は作らなかった。井の頭線は軌間(2本のレールの間隔)も他の京王各線の1372mmとは異なり、1067mmとなっているけれど、これも小田急と同一である。

 その後帝都電鉄は小田急に吸収された後、戦時体制下で鉄道バス会社の統合を促す陸上交通事業調整法に則り、京王や京浜急行とともに東急電鉄グループの一員となったが、戦後再分割の際に井の頭線は京王が面倒をみることになった。社名は京王帝都電鉄となり、1998年までこの名前が使われている。なぜ改札を新設したのか。ICカード乗車券での乗車経路を明確にして、収受運賃の誤りを防ぐという目的があるようだ。小田急と相模鉄道が交わる大和駅でも同様に改札の増設が行われた。

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■“かつての首都高”の料金体系がわかりやすい

 でも欧米の都市交通を何度も利用している筆者から見ると、時代に逆行しているような気もする。欧米では同じ都市内を走る鉄道やバスの事業者は「運輸連合」というひとつの団体を結成し、同一運賃で運行していることが多いからだ。運輸連合の歴史は古く、1960年代にドイツ(当時の西ドイツ)で始まったと言われている。たしかにドイツのベルリンやフランクフルトに行くと、JRに相当するDB(ドイツ鉄道)の通勤電車も地下鉄も路面電車も共通運賃になっていて、前回のコラムで紹介したように信用乗車方式を導入している。

 フランスのパリやスイスのチューリッヒ、米国オレゴン州ポートランドなど、筆者が訪れた多くの欧米の都市でこの方式を導入していた。これらの都市では運賃の決め方も日本と違い、距離制ではなくゾーン制を導入している場所が多い。東京にたとえれば、山手線内をゾーン1、山手線外側で京浜東北線と中央線に挟まれた地域をゾーン2と分け、通過するゾーンの数が増えるにつれ料金が上がる方式にしている。

 かつて首都高速道路が東京・神奈川・埼玉の地域別に料金を分けていた手法と似ていて、隣の駅が違うゾーンという場合は割高感があるけれど、筆者のように外国から訪れた一見さんにとっては分かりやすい。一方アジアでは、運輸連合やゾーン制は導入していない都市も多いけれど、シンガポールのように2つの事業者が地下鉄や新交通システムを運営しつつ運賃体系は共通という場所はある。

 東京でもこれに近い動きはあった。東京メトロ(東京地下鉄)と都営地下鉄(東京都交通局)の2つの地下鉄事業者を統合しようという計画だ。旗振り役を務めたのは元都知事の猪瀬直樹氏だった。彼はメトロ半蔵門線と都営新宿線のホームの間にあった壁の撤去をはじめ、メトロ日比谷線秋葉原駅と都営新宿線岩本町駅など歩いて乗り換え可能な駅について、乗り継ぎ運賃割引を適用するなどした。

 ではその後、一元化の取り組みはどうなったか。乗り継ぎ時の運賃割引の動きは進んでいて、今年3月17日にはメトロ日比谷線・都営浅草線の人形町駅とメトロ半蔵門線水天宮前駅などが新たに適用された。しかし東京メトロと都営地下鉄は依然として統合してはおらず、運賃も別々のままだ。

 同じ都市に複数の交通事業者がいると、以前取り上げた両備グループのバス廃止問題で紹介したように、競争が激しくなって路線の維持が難しくなることにもなる。ひとつの都市の公共交通はひとつの事業体が管理して運賃も統一したほうが、便利だと感じる利用者は多いはずだ。

文=citrus モビリティジャーナリスト 森口将之