『御社の商品が売れない本当の理由』こり固まった考え方を一新するマーケティング

ビジネス

公開日:2018/4/27

『御社の商品が売れない本当の理由 「実践マーケティング」による解決』(鈴木隆/光文社)

「自社の製品をもっと売りたい」と考えている社会人ならば、一度はマーケティングの本を手に取ってみたことがあるはずだ。しかし、「一通り読んでみたけど、実際の仕事に結びつかない」とか「理論を知っても、具体的に何をしたらいいのかわからない」といった悩みを抱えている人も多いだろう。

 なぜ、このように理論と現実の間に差が生まれてしまうのか。『御社の商品が売れない本当の理由 「実践マーケティング」による解決』(鈴木隆/光文社)では、その理由を、多くのビジネス書や教科書にある理論が経営学者・コトラーの説いた「管理マーケティング」から大きく進化していないからだと指摘している。

 本書は、前述の管理マーケティング内の基礎理論を初級レベル(★)、その体系を脱するものを中級レベル(★★)、そしてそれをさらに“超える”理論を上級レベル(★★★)と分類して、それらを順に解説してくれる。そのため、マーケティングの本を読むのはこれが初めてという人から、既にいくつか読んでみたという人まで、幅広い読み手にとって得るもののある構成となっている。それぞれのレベルで紹介されている具体例を見てみよう。

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■「企業の最終目的は利益」ではない(★初級)

 マーケティングは事業を遂行するための手段であるから、まずその最終目的を確認しておかなければならない。そもそも、企業というものは何を目指して活動しているのだろうか。こう訊くと「会社は利益追求のためにあるのでは」と考える人が多いかもしれないが、著者が主張する目的とは“顧客の創造と維持”。企業に売上をもたらしてくれるのは、商品に代金を支払ってくれる顧客であり、その存在を創造・維持することが企業活動の根本なのだという。多くの企業が利益の最大化を優先しているようだが、こうした考え方は、産地偽装や耐震偽装などの問題につながりかねないという。

■「計画は精緻に立てればよい」わけではない(★★中級)

 管理マーケティングは、市場調査とその分析に基づいた計画を重視しており、それを忠実に実行すれば成功すると想定している。しかし、事前にすべて万全に計画してから実行することはビジネス上現実的ではないし、実行してみてはじめてその意味や効果が分かることもあるだろう。著者は、企業が戦略を実行していく中で、有効な創発型戦略(当初は意図していなかった戦略)を生み出すことが、成功の決め手になる可能性が高いという。

■「顧客はわかって買っている」とは限らない(★★★上級)

 私たちは、自分が常に意識的に行動していると思いがちだ。しかし、最近の脳神経科学や社会心理学の研究では、私たちの精神活動のほとんどを無意識が担っていることが明らかになってきた。つまり、人が何かを購入する際には、無意識がその判断や決定に大きな影響を与えている。例えば、「単純接触効果」は、ある対象を繰り返し見ることで好ましく感じるようになる現象のことだが、この心理的作用はテレビ番組や映画の中でさりげなく商品を使って視聴者にそれとなく印象づける「プロダクト・プレイスメント」という手法に利用されている。マーケティングの上級レベルでは、こうした人間の心理的性質を利用した手法をいくつも紹介している。

 著者は、これらの理論を、私たちの現代の生活に根差した「実践マーケティング」として、従来の管理マーケティングとは使い分けることを提案している。管理マーケティングが事前の戦略を立てる際に有効である一方で、この実践マーケティングは具体的な戦術を実行する際に役立つという位置づけだ。マーケティングの“実践”に臨んで悩んでいるという人は、本書を読むことで目の前の霧が晴れるかもしれない。

文=中川 凌