『文スト』だけじゃない! 実在する歴史上の偉人をモチーフにしたバトルマンガは、なぜヒットするのか

マンガ

更新日:2018/7/9

 歴史に名を残す偉人たち。さまざまな伝説を作ってきた彼らは、創作の世界でたびたびモチーフとして取り上げられる。それはマンガというジャンルにおいても同様だ。

 歴史上の偉人たちが登場するマンガは実に多い。しかも、最近では、偉人に“バトル”というエッセンスを加えた異色の作品が続々登場しており、そのどれもがヒット作となっている。はたして、“偉人バトルマンガ”の魅力とは何なのだろうか?

■東西南北の偉人が“異世界”で火花を散らす

『ドリフターズ』(平野耕太/少年画報社)

『ドリフターズ』(平野耕太/少年画報社)は、異世界を舞台にした偉人バトルモノだ。

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 主人公は戦国時代の武将・島津豊久。彼はかの有名な“関ヶ原の戦い”の最中、謎の存在によりエルフやドワーフの生息する異世界へと転送されてしまう。そこで同様に転送されてきた織田信長らと手を組み、異世界でもまた戦乱に身を投じていく。

 本作には上述のような日本の偉人たちはもちろん、天才戦術家として知られるハンニバル・バルカやフランスの聖女、ジャンヌ・ダルクなど、西洋の偉人たちも数多く登場する。本来であれば決して相対することのなかった偉人たちが同じ世界に存在し、ときに刃を向け合う姿には「興奮」の一言だ。ファンタジックな世界観のなかで各国の偉人たちが対峙する、まさに唯一無二の偉人マンガといえるだろう。

■偉人たちの“才能”を受け継いだ現代人のバトル

『リィンカーネーションの花弁』(小西幹久/マッグガーデン)

 世界中の偉人をモチーフにした作品には、こんなものもある。『リィンカーネーションの花弁』(小西幹久/マッグガーデン)だ。

 登場する偉人は、石川五右衛門、宮本武蔵、ニュートン、アインシュタイン、ナイチンゲールなど、そうそうたる顔ぶれ。とはいえ、実際に彼らが闘うわけではない。本作は彼ら偉人たちの“才能”を受け継いだ現代人が、それぞれの能力を駆使してバトルを繰り広げていくのだ。

 その才能は、偉人たちの所業がモチーフになっている。たとえば、石川五右衛門の才能を受け継いた主人公・扇寺東耶(せんじ・とうや)は、相手の能力を“盗み取る力”を持ち、宮本武蔵を前世に持つヒロイン・灰都=ルオ=ブフェット(はいと=ルオ=ブフェット)は、圧倒的な“剣才”による立ち回りを見せる。歴史の偉人を“特殊能力”に見立てたバトルは、他では読めないような白熱ぶりだ。

■有名な文豪たちをキャラクター化した異色のバトルモノ

『文豪ストレイドックス』(朝霧カフカ:原作、春河35:作画/KADOKAWA)

 今年映画化もされた『文豪ストレイドックス』(朝霧カフカ:原作、春河35:作画/KADOKAWA)にも偉人たちが登場する。しかし、他と違うのは、登場するのがすべて“文豪”という点だ。

 本作では、太宰治や芥川龍之介、中島敦など、誰もが知っているであろう歴史上の文豪たちがあらためてキャラクター化されており、なんと戦火を散らしていく。戦いのカギとなるのは、彼らが持つ異能力。それらはすべて、それぞれの文豪が実際に残した作品にちなむものだ。

 たとえば、主人公・中島敦は凶暴な白虎に変身する「月下獣」という能力を持っている。この能力の元ネタになっているのは、一人の男が人食い虎に変身してしまった顛末を描いた、中島敦のデビュー作「山月記」だ。このように、実在する文豪たちをキャラクター化し、彼らの文芸作品を元に異能力を考案した本作は、非常に独特であり、その世界観が圧倒的な支持を集めている。

■伝説の神々VS歴史上の偉人たちの戦いが始まる

『終末のワルキューレ』(梅村真也:原作、フクイタクミ:構成、アジチカ:作画/徳間書店)

 そして、最後に紹介するのも、これまたオリジナリティあふれる偉人バトルモノだ。その名は『終末のワルキューレ』(梅村真也:原作、フクイタクミ:構成、アジチカ:作画/徳間書店)。5月19日(土)に第1巻が発売されたばかりの作品だ。

 本作の主人公となるのは、戦乙女(ワルキューレ)とも呼ばれる女神・ブリュンヒルデ。物語は、1000年に一度開かれる全世界の神々が集う「人類存亡会議」に、彼女が足を運ぶシーンから幕を開ける。インドの神・シヴァやギリシャの女神・アフロディテらが「人類滅亡」に賛成を唱えるなか、ブリュンヒルデが提案したのが、神々と人間との最終闘争(ラグナロク)だった。

 それは神と人類とのタイマン勝負。13対13で行われ、先に7勝した方が勝利。人類が負けた場合は即刻滅亡、ただし勝利した場合は次の1000年までの存続が約束されるというもの。そう、本作は偉人と神とが戦いを繰り広げるというなんとも“規格外”のバトルマンガなのだ。

 第1巻で描かれる第1戦目のカードは、北欧の最強神・トールと、「三国志」でも最強の武人として描かれる呂布奉先とのバトル。しかし、普通に考えて、人類が神に勝てるわけがない。事実、トールは雷を操る人智を超えた能力を持っているのだ。だが、そこでブリュンヒルデが仕掛ける。彼女は人類に神と対等に渡り合うための武器を授け、神々が持つチート能力というハンデをなくすことを画策する。その結果、戦いの行方はまったく見えないことに。こうして始まる、伝説の神々と歴史上の偉人たちとのバトル。数ある偉人バトルマンガに独自の味付けで勝負を挑む本作は、きっと今後話題を集めるに違いない一作だ。

 こうして振り返ってみると、偉人バトルマンガにはオリジナル色の強いものが多く見受けられる。誰もが知っている偉人を扱うからこそ、そこにはそれぞれの作家の発想力や切り口が光るのだろう。作家によってまったく解釈も異なる。その違いを楽しむのも、一興かもしれない。

文=五十嵐 大