TVアニメ放送中! あやかしを魅了する、しなやかなヒロインとまごころグルメ『かくりよの宿飯』

文芸・カルチャー

2018/5/30

『かくりよの宿飯(富士見L文庫)』(友麻碧/KADOKAWA)

 2017年にTVアニメ化された『異世界食堂』や現在アニメが配信中の『異世界居酒屋「のぶ」』といった、「異世界転移×グルメ」作品が人気を拡大している。『かくりよの宿飯(富士見L文庫)』(友麻碧/KADOKAWA)もまた、異世界グルメ系のひとつ。4月よりTVアニメがスタートし、2クール放送されることが発表されている。

 本稿執筆時、アニメは第8話まで放送済みだ。これまでの放送を振り返りつつ、原作でひとつの区切りを迎える第5巻までの見どころを紹介しよう。

 本作の舞台は、あやかしの棲まう“隠世(かくりよ)”。あやかしを見る力を持つ女子大生・津場木 葵(つばき・あおい)は、亡き祖父の借金のカタに隠世の宿屋「天神屋」の大旦那と結婚することになってしまう。しかし、葵は嫁入りを拒否し、自らの手で借金を返そうと天神屋で働くと宣言する。

 大旦那の許嫁として扱われる葵は、一部のあやかしから冷たい態度を取られてしまう。しかし、葵の持ち味は負けず嫌いな性格。あやかしに怖じ気づくことなく、真っ正面からそれぞれの悩みや苦しみにぶつかっていく。大旦那に憧れ、葵を煙たがる雪女・お涼。葵の型破りな祖父に育てられ、祖父に複雑な思いを抱く土蜘蛛の兄妹。一筋縄ではいかないあやかしも、葵の真摯な態度と料理の前に協力を惜しまなくなっていく。

 TVアニメにも原作にも共通するのが、食事シーンに過剰なリアクションがないところだ。料理の描き方はていねいで細やか、しかし口にするシーンはさりげなく。噛みしめているのは、料理にまつわる思い出や自分自身が抱える想い、あるいは葵の気遣い……。そう思えるほどに冷静な描かれ方をしている。あくまでも中心となるのは、人間ドラマならぬ「あやかしドラマ」なのである。

 一見、冷酷そうな大旦那が実は男気に溢れているのも、大きな見どころだ。早く嫁になれと軽口を叩きながらも、彼女の活躍をそっと見守り、窮地には手助けする。見ているこちらがドキっとするようなシーンも徐々に増え、2人の行く末から目が離せない状態だ。

 さて、TVアニメは葵が食事処「夕がお」を開店し、経営も徐々に軌道に乗ってきたというところ。この先の展開が描かれる原作第3巻では、大旦那の留守中にライバル宿屋「折尾屋」の従業員である葉鳥と時彦が天神屋にやってくる。時彦と静奈の間には浅からぬ因縁があるようだが、葵は二人の関係を取り持つためにトマトを用いた料理をふるまう。頼もしいまでの成長ぶりだ。

 原作の第4巻、第5巻では、葵の折尾屋での奮闘が描かれる。折尾屋ならではの海の幸を使った料理の数々、葵を心配してか変装して折尾屋に潜り込む大旦那と、どちらもいい味を出している。葵がある儀式のため折尾屋の料理人として奔走する中、天神屋と折尾屋の違いが描かれるのも面白い。客への対応、社員の教育、従業員の悩み……と、まるで「お仕事系」作品を読んでいるかのよう。そんな両者の確執を取り持とうとする葵は、「かすがい」のようでもある。

 ともすれば、葵はおせっかいなヒロインになりそうだが、彼女が魅力的に見えるのは「しなやか」な女性だからだろう。どんな状況でもめげない、折れない、投げ出さない。とにかく気持ちのいいヒロインなのである。

 アニメでは原作のどこまで描かれるのだろうか。心あたたまるエピソードがどのように表現されているのか、是非注目頂きたい。

文=岩倉大輔