盲目のドS美人雀士が、最後に見せる笑みの意味は……?『笑うあげは』3巻

マンガ

公開日:2018/6/30

『笑うあげは』(田中ユタカ/竹書房)

 90年代に成人向けの美少女コミックでデビュー、2000年代からは一般向けの青年誌に活躍の場を移した田中ユタカは、一貫して純愛、甘く優しく幸せな恋模様を描き続ける、ある意味稀有な作家だ。

 そんな田中ユタカが2017年、久々となる雑誌連載を開始……しかも舞台は竹書房刊のギャンブル誌『近代麻雀』と聞いて、ファンに少なからぬ驚きをもたらした。一体どんな麻雀マンガになるのだろうか、そして激甘な愛の描写で心に訴えかける“田中節”は、どうなってしまうのだろう!?

 そうしてスタートした作品『笑うあげは』は、どんなところでも麻雀を打つ盲目の美女・あげはさんを主役に据えたヒューマンドラマ。奇跡の手を持つ按摩師・あげはは、指先で牌を読み取り、相手に捨て牌を発声申告してもらうことで麻雀を打つ。そして、視力を失った際の障害で表情が引きつるのだと本人は言うが、常に穏やかな微笑みを浮かべている。

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 冴えないサラリーマン・東は行く先々の雀荘であげはさんと出くわすが、そこは粗野で下品な男共が集まる雀荘だけに、イカサマを仕掛けられることもあれば盲目・女性であることで侮られることも。しかしあげはさんは常勝の雀力でもって、そうした男共をなぎ倒しては、東に向かって「ニヤリ」と笑うのだ。

 本作の魅力はこのあげはさんの笑みにある。ゲス男を出し抜いた時には煽り気味に笑うし、オーラス(最終局)で逆転を決めた際には子供のように無邪気に笑う。そもそもS気質があるようで、ジゴロ気取りのチャラ男などは散々コケにされまくる。とはいえキツい性格というワケではなく、とにかく麻雀が大好きな愛嬌たっぷりの美女なのだ。

 最新巻となる第3巻では、人生に悔いを残しまた絶望もしている和菓子屋の店主、見栄とプライドに凝り固まった下品な成金、それぞれに栄達を極め金などには執着しない本物の成功者たちなどとの対局が収められているが、いずれも最後はあげはさんの笑顔、それも一様ではない“様々な笑顔”で締めくくられる。

 麻雀のルールがわからなくとも、本作は問題なく読める。牌のやり取りや読み合い、闘牌は主軸とはなっておらず、あげはや東、彼女と卓を囲む人々による人間模様こそが読みどころだ。とはいえ闘牌部分も良く練られてはいて、当然ながら麻雀の知識があればより楽しめるのだが、必須ではない。作者・田中ユタカは本作を描くまで点数計算もできないレベルだったそうだが、それでも麻雀好きの心に刺さる物語を見事に紡いでいる。その意味ではやはり、心に語りかける“田中節”は今作でも健在であり、麻雀にロジックよりロマンを求める打ち手の心にも響く物語となるはずだ。ゲスにはおちょくりでやり返したりはするものの、根底にあるのは麻雀への愛、卓を囲む人々に対する愛、そして見えない目を通して見つめる世界への愛なのだ。

 そうそう、常に笑みを絶やさぬ愛の人・あげはさんだが、第3巻では珍しく怒りを2度ほど見せていた。自分がどれだけ舐められようが怒らないあげはさんでも、大切な女性執事・橘花さんをいじめられれば、そして“東がモテれば”怒るのだ(実際は色仕掛けでカモられていたのだが)。東の顔をグリグリと揉み伸び切った鼻の下を確認したあとで、彼をカモった子猫ちゃん3人に札束を叩きつけ「おいコラァ」と凄むあげはさん! 笑顔のままで怒る激レアなあげはさんもまた、最高に魅力的なのであった。

文=佐藤圭亮