ビジネスマンよ、ボケよ! 先行くビジネスを生み出すための革新的教科書

ビジネス

公開日:2018/7/5

『ザ・ファースト・ペンギンス』(松波晴人/講談社)

 iPhoneの登場は世界中に衝撃を与えた。あの日から人類の生活が様変わりした。また、LINEをはじめとするSNSアプリは、私たちのコミュニケーションを一変させた。ネットショッピングの頂点に立つAmazonは、今もなお物流と人々の消費行動に影響を与え続けている。

 革新的な技術やサービスを生み出した企業は、一気に覇権を握る。その一方で、覇権を握られた企業たちはあっという間に衰退してしまう。現に国産スマホは苦戦が続き、ネットショッピングに圧された小売業界は劣勢に立たされている。

 これからの時代は“現状維持”だけではビジネスが成り立たなくなる。業界の頂点を目指さないと革命の波に圧されて倒産するかもしれない。そのためには消費者の心をつかむ“新しい価値”を提供する必要がある。iPhoneやLINE、Amazonが示したような新しい価値だ。

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『ザ・ファースト・ペンギンス』(松波晴人/講談社)はその重要性を訴え、どのように新しい価値を生み出すのか“方法論”を説いたビジネス書だ。企業の生き残り戦略をかけた教科書と言ってもいいだろう。

■新しい価値の創造を阻む2つの壁

「新しい価値を生み出す」。言葉にするのは簡単だが、実行するのは実に難しい。その大きな壁が2つある。1つが、それを生み出すために「どう発想するか」。そしてもう1つが「誰もが初めて聞く新価値を、組織でどうやって意思決定するか」。この2つの壁が途方もなく高いから、多くのビジネスマンが小さく収まってしまうのだ。

 本書では、この壁を越えるための“8つの理論”を解説している。しかもただ解説するだけでなく、より具体的に理解するため、ドラマチックなストーリーとあっと驚く仕掛けを用意しているのだ。特に、私たちビジネスマンの日常で起こりがちな職場の光景を描き出し、自分の限界や上司に立ち向かい続ける登場人物たちの闘いには胸が打たれる。きっと社会や企業で功績を挙げた人は、舞台裏でこのような闘いを繰り広げてきたに違いない。本書はストーリー作品としても読み応えがある。

 しかしそれを紹介しようとすると、本書がビジネス本なのか小説なのか、はたまたストーリーの伏線を回収するペンギン工作キットなのか判別がつかなくなってしまう。これでは本末転倒なので、この記事では新しい価値を想像するために必要な「リフレーム」についてご紹介したい。

■新しい価値を生み出すには“ボケ”た視点と発想を磨こう

 新しい価値を生み出すためには、日常で見かける光景に「気づく」ことが大切だ。

「なんでカフェにいるカップルは退屈そうにスマホを眺めているんだろう?」
「なんで高齢者になると、病院で患者同士ワイワイしているんだろう?」

 そしてこういった「気づき」に対して、その真相を暴き出す「仮説」が必要になる。ニュートンが木から落ちたリンゴを見て「重力」を想像したように、日常に広がる光景に大胆な想像力を働かせよう。

 しかし、ここまでは頑張れば誰でもできてしまう。だが、多くのビジネスマンが新しい価値を創造するまでに至らない。なぜだろうか。

 それは「仮説」が常識の範囲で留まっているからだ。

「きっと今は倦怠期中で雰囲気が悪いに違いない」
「どうせ高齢者は仕事もせずにヒマなんだろう」

 こういった「一般論」に収まるような仮説ばかりを生み出していては、新しい価値を想像できない。そこで必要になるのが「リフレーム」だ。

 本書ではリフレームを「ビジネスにおいてそれまで常識とされていた解釈やソリューションの枠組み(フレーム)を、新しい視点・発想で前向きに作り直すこと」と定義している。

 かみ砕いて言えば、芸人の「大喜利」のごとく、目の前の光景や調査で得た事実に対して「ボケ」ることが重要だ。

「きっとこのカップルは、スマホで会話をした方がお互いに通じ合える“新時代の恋人コミュニケーション”を模索しているのかもしれない」
「きっと医者が高齢者の老かいな人生経験を求めてカウンセリングを受けているんだ」

 冗談でもなんでもなく、これくらいボケて新しい視点・発想を探そう。

 しかし新しい視点・発想を生み出そうとするがあまり、ボケすぎた仮説ばかりひねりだしても意味がない。ひねり出した仮説をさらに、

1.新規性:これまでの常識と異なるか
2.妥当性:それは確かなことだと言えるのか
3.汎用性:その仮説が適用できる範囲は広そうか

 この3つの観点より評価する必要がある。この3つの評価を乗り越えることができれば、その仮説は新しい価値を生み出す卵になりえるはずだ。

 本書では、このリフレームについてもう1つ大事なコツを述べている。気になった方はぜひ手に取って確かめてほしい。

 さらに、「仮説」を生みだしてもそれは終わりじゃない。始まりだ。ここから本来の目的である「新しい価値」を生み出すための行動へ移さなければならない。組織の中で闘うのだ。それが先ほどの「2つ目の壁」につながる。革新的なビジネスは、並大抵では生まれないのだ。

 科学技術がどんどん進歩するこの時代、誰もがビジネスで革命を起こせるチャンスがある。これはビジネスマンだけの話じゃない。ある主婦が家事をしながらアイデアを思いつき、それを商品化して大儲けした実話があるように、すべての人にチャンスが生まれたのだ。

 本書はその可能性を今よりずっと高めてくれる、これからの時代を生きるための教科書だ。大企業の創業者になることを夢見るビジネスマン、今の日常から一発逆転したい主婦、大いなる野望を抱く学生にぴったりな1冊だ。

文=いのうえゆきひろ