本当においしいビールは何度? ビール好きなら知っておきたい雑学

食・料理

2018/7/9

『カラー版 ビールの科学 麦芽とホップが生み出す「旨さ」の秘密(ブルーバックス)』(渡淳二/講談社)

 夏の暑さとともに、おいしく思えるのがビールだ。一日の終わりに飲む一杯は格別である。このビールのおいしさについて考えたことがあるだろうか。

「喉の渇きを癒し、爽快感を与え、しかもおいしく、次の一杯も新たにゴクゴクおいしく飲める」

 こう的確に表現するのは、サッポロホールディングス株式会社顧問、公益財団法人サッポロ生物科学振興財団理事長の渡淳二氏だ。渡氏ほど「ビール博士」という言葉が似合う人物はいない。

 渡氏は、京都大学農学部で学んだのちに、サッポロビールに入社。途中、東京大学農学部、フィンランド国立技術研究所(VTT)などで醸造とビールを学ぶ。ビールひと筋の人生だ。

 そんなビール博士こと、渡氏が、本格的な夏を迎える前に、ビールのおいしさを教えてくれる。著書『カラー版 ビールの科学 麦芽とホップが生み出す「旨さ」の秘密(ブルーバックス)』(渡淳二/講談社)より一部を紹介しよう。

■最高のビールを飲む掟

 渡氏の長年の研究の成果。科学的に正しいビールの飲み方を伝授しよう。次の3つの遵守が鉄則だ。

ビールをおいしく飲む掟
[1]温度
[2]泡
[3]グラス

[1] まずビールの温度を適切に保たなければならない。日本でもっとも飲まれているピルスナータイプのビールは、一般的に6~8℃がもっとも爽快感を味わえる。口当たりの良い一杯を飲みたければ、缶でも瓶でも冷蔵庫で5~6時間冷やすのが目安だ。

[2] そして「泡」こそ、ビールの核心ともいえる、超重要な存在だ。ビールがおいしさを充分に発揮できるかを見分けるには、「泡」を見ればわかるという。もしも「泡だらけ」、または「泡たりず」なら、そのビールのポテンシャルは発揮できていない可能性がある。

 ビールにおける「泡」とは、おいしさを守るガードマンのような役割だからだ。「泡」があるからこそ、炭酸ガスをのがさず、ビールの「コク」「キレ」を守れるのだ。だから「泡」があるうちに飲み干すのが、ビールの作法とも言える。

[3] 最後に「グラス」。これも泡立ちと連携して、ビールのおいしさを引き出す。理想的なグラスは、ビアホールのジョッキのように「ゆるやかな曲線」の円筒形。さらに底に「適度な丸み」があるものだという。

 このようなビアジョッキなら、ビールが底に当たったとき、円を描くように「下から上」へ対流する。結果、きめ細かい泡がつくられるということだ。

 ちなみに黄金比は、直径1に対して、高さが「1.8〜2.2」くらいだという。渡氏のビールへの執念がこの数値からも感じ取れるだろう。

■ビールの「コク」と「キレ」の正体とは?

 上に記したようなことは「ビール好きだったら常識」と思っているなら、もう一歩進んだビールの解説をしよう。ビールのおいしさを表現するなら、「爽快感」である。だがそれだけなら、炭酸水と同じだ。

 ビール独特のおいしさを形づくっているのは、「コク」と「キレ」だ。「コク」とは、味の深みであり、豊穣な旨みを指す。「コク」は、「香味の強さ」、飲み応えを生み出す「ボディー感」などを与えてくれる。

 では何がビールの「コク」を決めるのか。まずひとつが、ビールの原料である麦芽。さらに詳しくみると、この麦芽に含まれる「ポリフェノール」なのである。ワインでおなじみのポリフェノールはビールにも含まれているのだ。そして、ポリフェノールの量と「コク」の関係は相関しているとのこと。

 さらにポリフェノールは、おいしさを引き出す褐色の見た目、そして口当たり、ボディー感にも必要不可欠な成分なのだ。

■後味スッキリが、「キレ」

 一方「キレ」は何が左右するのか。飲み込んだあとの「香味の持続性」や「消失の早さ」が「キレ」と表現される。

 ビールを口に含むと、麦芽やホップの香りが口中に「ウマ~ッ」と広がる。が、しかしこの「ウマ~ッ」がマックスになったとたん、すぐ消えるのだ。

 渡氏いわく、「落差」が「キレ」である。味がすぐに消えるほど「キレがよい」と感じられるのだという。

 この「キレ」に影響を与えるもののひとつが、ホップなどの「苦み」そして「炭酸ガス」である。ホップなどの原料が、香り豊かな刺激を与え、それに「炭酸ガス」が後押しをする。ご存じのように、注いでから長いこと放置したビールは、おいしくない。それは炭酸の刺激が減り、香味のバランスが崩れ、「キレ」が悪くなるからだ。

 だからビールは、ジョッキで飲むのもいいが、やや小さめの200ml程度のグラスに注ぎ、短時間で「キュッ」と飲むこともオススメだと渡氏はいう。

■世界的に「若者のビール離れ」が進む

 こんなにおいしいビールなのだが、近年のビール消費量は減っている。しかも「若者のビール離れ」は、世界的傾向であるという。そもそもアルコールを飲まない若者が増えているとのこと。そしてもうひとつが、「苦み」を嫌う傾向にあるからだ。

 ヒトは、食経験を積めば積むほど、「苦み」を好きになることが、すでに科学的に実証されていると渡氏は語る。しかもビールにとって苦みは、「全体の味を引き締める」という重要な役割を担っている。

 けれども昨今の若者は、なぜビールの苦みを好きになれないのか。渡氏は次のように推測する。

 若年層は、子供の頃から食事のときでもジュースなどを一緒に飲むことに慣れているからではないかと。なんとビールの本場ドイツでも、ビールの苦さは拒まれている。ドイツの若者はビールのレモネード割りのように甘く「ビアミックス」にして飲むという。

■クラフトビールに未来を見いだす

 このようにビールを巡る環境は厳しいように思われる。しかし、ビール博士は未来に希望を見いだす。

 アメリカでは2010年代から爆発的に「クラフトビール」と呼ばれる、小ロットで生産される個性豊かなビールが増えた。そのブームを支えているのは、アメリカの若者だという。クラフトビールには、ホップの効いたかなり苦いタイプも含まれている。だから一様に「苦い」からビールが嫌われているのではない。

 そして希望の萌芽は日本にもある。2018年4月より酒税法改正で、ビールの副原料の選択肢が広がったのだ。果実やハーブなどいろいろな味わいが増えるだろう。結果、「ビールは苦い」といった単一のイメージが変わってくるかもしれない。

 このようにビールの古今東西を渡氏は著書にまとめている。しかもこの本は、2009年に刊行した同名タイトルの改訂版である。発売から10年を迎え、世界のビール環境の変化を捉えて大幅な書き直しをしている。

 本書はインテリジェントな印象を持つ、「ブルーバックス」シリーズのひとつだが、お堅い内容だけではない。世界各地のご当地ビール「飲み歩き」旅ガイドや、「ビール料理」のレシピなども紹介されている。幅広い見地からビールを知る、そして味わい尽くす秘訣が書かれているのだ。つまりこの1冊を読めば世界のビール事情がすべて把握できると言っても過言ではない。

文=武藤徉子