別名“マーダーボール(殺人球技)”――金髪の可愛いJKが世界一激しい車イス競技に挑む『マーダーボール』がアツい!

アニメ・マンガ

2018/7/15

『マーダーボール』(肥谷圭介/講談社)

“ウィルチェアーラグビー”という競技をご存じだろうか。スポーツにあまり関心がなくても、リオ2016パラリンピックで日本代表が銅メダルを獲得した競技と聞いて、ひざを打った人もいるかもしれない。

 ウィルチェアーラグビーは、障がい者が車イスに乗って行う球技スポーツ。4:4のチーム戦で、車イス競技の中で唯一タックルが認められている。選手たちは耐衝撃性に優れた競技用の車イス・通称“ラグ車”を乗りこなし、試合中はあちこちで選手同士の衝突音が響きわたる。転倒やパンクは日常茶飯事で、ラグ車のボディは競技中のタックルで凸凹だらけ……。そのプレーの激しさから、またの名を“マーダーボール(殺人球技)”と呼ぶ。

『ギャングース』で知られる肥谷圭介さんが「コミックDAYS」(講談社)で連載している『マーダーボール』は、まさにそのウィルチェアーラグビーをテーマにした本格スポーツマンガだ。監修には日本ウィルチェアーラグビー連盟が全面協力している。

■“障がい者”の持つジレンマを吹き飛ばした競技との出会い

 主人公の海野アサリは、交通事故で足に障がいをもった女子高生。リハビリはあまり順調とは言えないが、明るく元気に振る舞っている。でも、本心ではイライラを募らせている、鬱屈した日々を過ごしていた。その理由は、健常者と障がい者を隔てる差別感情にあった。

 自分の不注意で子供とぶつかれば、周囲は子供ではなくアサリを心配する。友達から合コンに誘われれば、相手の男から「障がい者なんて連れてくるな」と邪魔者扱いされる。歩けなくなったその日から“普通”の女の子ではいられなくなった疎外感……。だからと言って誰も責めることができず、アサリは「悪いのは事故に遭った私」と言い聞かせることしかできない。

 そんなアサリに思わぬ転機が訪れた。街で同じ車イスの中年男・白川に声をかけられ、ナンパと勘違いして逃げ回るうちに、あべこべでウィルチェアーラグビーのチーム“ラックス”の練習に参加する羽目になる。そこで相手ディフェンダーからの激しいタックルを受け、車イスごと思いっきり飛ばされて……。今まで味わえなかった初めての感覚。「なんで誰も教えてくれなかったの?」「ぶつかるってこんなに気持ちいいんだ」。全力を出すことの興奮と衝撃にアサリのモヤモヤは吹き飛び、抑圧されていた感情がよみがえってくる。ウィルチェアーラグビーの魅力に目覚めた瞬間だった。

■アサリの姿に共感と応援の言葉を送りたくなる!

『マーダーボール』は、ウィルチェアーラグビーという、いわばマイナースポーツを通じて、1人の女子高生の青春を追いかけたドラマだ。それと同時に、障がい者が抱える現実的な苦悩やジレンマといった社会的テーマも描かれている。

 アサリには、車イスに乗って誰よりも速く駆け抜ける才能があった。それでもアサリはラックスのメンバーたちの誘いを断って、今までと同じ日々を選択しようとする。その背景には、アサリが抱えている複雑な家庭事情が重くのしかかっていた。彼女は自分の挑戦してみたいという本心と、とある後ろめたい罪悪感との間で揺れ動くことに……。

 一方で、彼女が事故に遭った原因を知ったうえで、アサリをチームに引き込もうとするラックスの面々はとても痛快だ。特に代表を務める大道りんの行動は、アサリへの思いやりは微塵も感じさせない強引さ! でも、アサリを障がい者ではなく才能のある若者として対等に扱っていて、それが彼女の初期衝動を強く突き動かすことになる。このエピソードの一部始終は必見で、青春特有のエモさが爆発している。色々な状況はさておいて、前のめりに挑もうとするアサリの姿に共感と応援の言葉を送りたくなるはずだ。

■実際の日本代表チームにも女性プレーヤーがいる

 ところでウィルチェアーラグビーは男女混合スポーツだが、日本にはアサリと同じような女性選手がいる。その1人、倉橋香衣さんは、日本代表チームに所属している注目プレーヤーだ。元々は新体操をやっていたという倉橋さんの生い立ちは、アサリを彷彿とさせる部分もあって、ウィルチェアーラグビーに関心を持つきっかけになるかもしれない。

 2019年のラグビーワールドカップ日本大会、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを前に、『マーダーボール』を通じて、苛烈なもうひとつのラグビーの存在に興味を持ってみてはいかがだろうか。

文=小松良介