凶暴なティラノサウルスの本当の姿は―― 最新研究で見えてきた恐竜の世界
公開日:2018/7/25
子どもの頃は恐竜図鑑のページを夢中でめくっていたのに、今では日々の暮らしに追われ、恐竜のことなんて忘れてしまったという人は結構いるだろう。現実世界で彼らに追いかけられることなどあり得ないのだから、強力な肉食恐竜・ティラノサウルスの歩くスピードが時速何キロであろうが、もう自分とは関係ない…それはまあ、そうだ。
でも、大人だから非日常の世界は知らなくていいなんてことはないはずだ。心のどこかで、幼い日に感じたワクワクを懐かしんでいる人にこそ、本書『大人の恐竜図鑑』(北村雄一/筑摩書房)を読んでいただきたい。
恐竜に関する知識は子供の頃の図鑑程度で、ティラノサウルスやトリケラトプスといった有名どころの名前しか知らないという人なら、本書の内容は、きっと驚きの連続であるはずだ。
テキスト中心の本ではあるが、紹介する恐竜のそれぞれに、最新学説を反映したイラスト(サイエンスライターの著者自身が描いている)がつけられており、やはりこれはタイトル通りの『図鑑』であろう。
ちなみに、プテラノドンなどの翼竜や、フタバスズキリュウなどの首長竜は正確に言えば恐竜ではなく、「恐竜と共に栄えた“大爬虫類”たち」なのだが、本書ではあえて恐竜と同列で取り上げられている。
■描きかえられた恐竜たちのイメージ
一定の年齢以上、さらにある程度の恐竜好きという人なら、巨大な、首の長い「ブロントサウルス」という恐竜を覚えているだろう。だが、現在その名は消滅し、「アパトサウルス」と呼ばれている。ブロントサウルスとされていた恐竜はアパトサウルスが成長したもの、つまり同種だったことは、実はとっくの昔の1903年には判明していたという。しかし、そのことが一般に広まるのに100年近くを要してしまったというのが実情らしい。
また、恐竜には羽毛が生えており、鳥は恐竜から進化したという説は1980年代から言われてきたことではあるが、もはや仮説ではなく学会でも常識だそうだ。これは恐竜研究における一大エポックであり、本書中でも度々触れられているが、仮説が証明されていくまでの過程に、研究者の革新派と守旧派が意地を張り合う様子も垣間見えて非常におもしろい。
なお、ティラノサウルスの速度について先に触れたが、時速10~13キロで「歩く」のが最近の説だという(両足がともに地面から離れる瞬間がなければ「走る」といえない)。歩く、と言ってしまうとなんだかちょっと迫力に欠ける感じはするが、この速度ですたすた歩いていけるということだ。
一方、人間はせいぜい時速9キロだそうだ。100メートル走なら時速40キロ出せる人もいるが、ずっとそのペースで走れるわけではない。もしも現代にティラノサウルスが存在していたら、全力で逃げたところでいずれはすたすた歩くティラノサウルスに追いつかれてしまうわけである。想像してみると、これはじわじわと怖い。
■知的興奮を呼ぶ、恐竜研究の最先端
古い図鑑によくあった、尻尾を地面に引きずってノシノシ歩くティラノサウルスというイメージは、某メジャー級ハリウッド映画の影響もあり少なくなったかもしれない。だが、最新の研究は映画で描かれたイメージ像のさらに先を行き、今やティラノサウルスは羽毛を生やしている。ほんの十数年で、図鑑の絵は大きく描きかえられてしまった。
このように恐竜研究の最先端は常にダイナミックに動いており、少し前の常識でも通用しないといえよう。それを追いかけるために必要な、新たな知見が本書にはコンパクトに、しかもわかりやすくまとめられている。
この夏、日常を忘れるために恐竜の躍動する映画でドキドキするのもいいが、科学の最先端にふれ想像を巡らせるワクワク感を「大人の図鑑」で味わい、子どもの頃で止まっていた知識をアップデートしてはいかがだろうか?
文=齋藤詠月
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