不祥事を起こす会社にはいったい何がある? “社風”のおそろしい正体とは

ビジネス

更新日:2018/8/14

『“社風”の正体』(植村修一/日本経済新聞出版社)

 時代は変わっても組織の不祥事が相次いでいる。最近では、新たな不正がニュースで報じられても、以前ほど驚かなくなってきた。品質不正、過重労働、パワハラ、セクハラ…庶民の感覚からすれば信じられないようなことが、集団の中では平然と起こっているのだろうか。その原因には一体何があるのだろう。本書『“社風”の正体』(植村修一/日本経済新聞出版社)は、こうした不祥事を生む要因に“社風”や“企業文化”といったものがあるとして、それらがどのように企業に影響を与えるのかを鋭く分析している。

■なぜ“大企業病”が起こるのか

 大きな会社が不正を行うと、その原因は“大企業病”にあるとよく言われる。大企業病とは、その名の通り、大企業でよくみられる保守的で非効率な企業体質のことだ。大企業には、これまでにある程度事業が成功してきたことや、創業からしばらく時間が経過していることの共通した特徴がある。この2点の特徴が“大企業病”と密接に関係している。

 まず、既存の事業の成功体験があるために、経営者はリスクをとることに慎重になる。製品の大幅な改善や、新しい事業への投資に消極的になる、いわば“守りの姿勢”だ。その結果、急激な市場環境の変化が起こるとその波に乗り遅れ、シェアや売り上げを落としてしまう企業が多い。近年では、ネット事業に乗り遅れた百貨店やアパレル業界の一部がこの例に当てはまるという。

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 また、創業から時間が経つと、組織が巨大化し内部では分業が進んでいく。これによって、事業部門ごとに閉鎖性が高まり、経営陣と現場との距離の開き、そして仕事の前例踏襲・形式主義が生まれやすくなってしまう。著者によれば、企業が大きくなればなるほど、こうしたリスクが高まるのだという。

■イノベーションを生む会社は何が違うのか

 それでは反対に、イノベーションを生み出す企業は、どんな社風をもっているのだろうか。本書では、3M(スリーエム)という会社を例にあげている。社名だけではピンとこないかもしれないが、「ポスト・イット」を開発した会社と言えば誰でもわかるだろう。同社は、就業時間の15%までを好きな研究に充てて良いとする“15%カルチャー”が有名で、ポスト・イット以外にも常に小刻みなイノベーションを起こし、新製品を生み出し続けている。

 名古屋市立大学の河合篤男教授によれば、3Mの社員の自発性の原点には、社員の失敗に寛容であれという同社の元社長・マックナイト氏の言葉があるという。自発的な挑戦による結果としての失敗は、企業全体で長期的にみればそれほど大きくはない。しかし、マネジメントが独裁化し、社員の自主性が失われることは、会社の将来に関わる重大な損失だと考えているのだ。

 一度作り上げられた企業文化を変えることはむずかしい。むずかしいけれど、不可能ではない。本書の最終章には、それを乗り越えてきたIBMやGEの改革の例もあげられている。あなたの会社の社風は、不祥事を起こしやすいものなのか、それとも新しくイノベーションを生み出せるものなのか。本書と照らし合わせながら、いまいちどじっくり見直してみてはどうだろうか?

文=中川 凌