なぜ会社は「何億円もの失敗」より「タクシー代」にうるさいのか? 理不尽な会社のモヤモヤを解明する

ビジネス

2018/8/9

『経営学者の読み方 あなたの会社が理不尽な理由』(清水勝彦/日経BP社)

 世の中は理不尽なことだらけだ。経済的な合理性を重要課題として追い求め、優秀な人材が多くそろっているはずの大企業ですら、日々理不尽かつおかしな問題が起きている。

『経営学者の読み方 あなたの会社が理不尽な理由』(清水勝彦/日経BP社)は、16の論文と12冊の書籍をビジネススクールの教授でもある著者の紹介のもと共に読んで、「気づく力」を鍛えていこうというものだ。例えば同じモノや現象を見ても、子どもの目線、学者の目線、現場のプロの目線では見え方がまったく異なるだろう。本書ではその「見え方」=「視点」=「セオリー」の立て方について考察を進めている。

■「大学は役に立つのか?」という性急な質問における愚

「大学は役に立つのか?」「MBA資格を取ったら役に立つのか?」「英語は役に立つのか?」

 これらの質問に共通して欠けているのは「どういうときに」「誰にとって」という「目的」の観点や、「課題意識」の前に答えを求めてしまっていることだという。前述のように、「見え方」=「視点」=「セオリー」は、答えそのものではなく、現実をよく見るために必要な、気づくためのガイドだと著者はいう。思考をただめぐらせることを、例えばはだしで走り回ることに例えるなら、「見え方」=「視点」=「セオリー」は、「くつ」なのだという。正しく利用して初めて価値が出るのだ。

■なぜ会社は「何億円もの失敗」より「ちょっとしたタクシー代」にうるさいのか

 この質問に対して本書が紹介するのは『パーキンソンの法則』(C.N.パーキンソン)の全10章からなるうちの第3章「凡俗の法則」。

議題の1案件の審議に要する時間は、その案件にかかわる金額に反比例する。

 同書で上記のように述べる際、取り上げられている例は以下の通りだ。
(1)「1000万ポンドの原子炉の見積もり」案件、2分半
(2)「350万ポンドの事務員の自転車置き場建設」案件、45分
(3)「21ポンドのミーティングのお茶菓子代」案件、1時間15分(そしてさらなる資料収集のために、次回に持ち越しになる…)

巨額の資金取引を理解できる人間には2種類ある。大金持ちと文無しだ。(中略)しかし、世界の大半はその中間、100万ドルは理解できないが数千ドルに関してはよく分かる人々、であり、組織の投資決定の委員会もそういう人たちで占められている。

 人はみな、自分の生活レベルの“実感”がある金額にしか反応できないものだという。それは企業においても同様で、交通費や接待費などの数万円程度までの出費には厳しいものの、何億、何十億というケタの投資の失敗に関しては責任がうやむやになる。要するに「何億の損」といわれてもピンとこないからだ。この問題の解決策は、凡俗にも実感できるようにすることだろうと著者は考える。また、お金だけの問題でなく、経営者が社員と会社の将来像を共有できているかということが本質なのではないか、とも指摘する。

 問題や課題の解決には「気づく力」が必要だ。本書で紹介される16の論文と12冊の書籍には、そのエッセンスが詰まっている。仕事で理不尽なことに疑問を抱き、しかもその打開策が思い浮かばないというとき、ビジネスパーソンはぜひ活用してほしい。

文=銀 璃子