あなたの部屋は大丈夫ですか? 引越先に「誰か」が大勢いるケースも…

文芸・カルチャー

2018/8/12

『たてもの怪談』(加門七海/エクスナレッジ)

 私は最近引越をしたばかりだ。色々な物件を見ていたなかで、2つのマンションが最終候補として残った。その片方は駅からかなり近い好立地なのだが、物件とその周辺に対して「なんだか空気が良くないな」という感覚を抱いてしまい、それは最後まで拭い切れなかった。決断を保留したまま帰宅し、両方の物件についてインターネット上の情報を隅々まで漁っていると、「変な空気」を感じた方のマンションでは数年前に飛び降り自殺が起こっていたという記事を見つけてしまった。

「その部屋の中で事件があったわけでもないし、気にすることでもない…」とも考えたが、やはり気分の良いものではなく、結局最終的に駅からは遠い方の、直感的に「幸せな温かい空気」を感じた部屋を選んだ。幸運なことに、今はこれといって問題のない新居での生活を送っている。

 私を含め霊感があまりないという人でも、引越の際にはその土地や物件の瑕疵(かし)を気にしたり、直感的な空気を重視する人は多いだろう。確かに引越はそう頻繁にするものではないし、物件を購入するともなれば、自分や家族の人生を大きく左右する問題だ。

『たてもの怪談』(加門七海/エクスナレッジ)は、そんな私たちに身近な「家」にまつわる怪談だ。オカルト・風水・民俗学などに造詣の深い著者ならではの、リアルな体験談。著者は、「見える」人だそうで、さらには「呼ぶ」体質らしい。そしてあろうことか、“何か”が「いたほうが」落ち着くのだという。肝が据わっているというか、只者ではないのだが、私にとってはこの状況がすでに怖い。

見えないモロモロとのつきあいが長いと、なんの気配もない場所は、むしろ居心地が悪いのだ。
凶悪なモノは勘弁だけれど、たわいないモノはいたほうがいい。
見えないモノの気配というのは、私にはミネラルみたいなものだ。(本書29頁)

 新居を購入することになり、何年もかけて念入りに物件を探す著者。役所や図書館でその土地に関する歴史資料を調べたり、占いを利用したりとその熱は人一倍だ。ようやく物件が決まると入居時にお祓いをしてもらい、新居での生活をスタートさせる。

段ボールの数が減り、六畳間の床が見えてくるにつれ、部屋が賑やかになってきたのだ。(本書94頁)

 部屋が片付くほど賑やかになる…? 壁を叩く音、人の足音、挙げ句は笑い声まで。しかし彼女は、その気配に害悪を感じなかったため、その部屋を「宴会部屋」と呼んで放置していたという。しかし「奴ら」はそうやって甘やかされたためか、彼女の寝室にまで侵入してくるのだが、そこで彼女は――。

 その後の彼女と「奴ら」の攻防も、おそるおそる読み進めると実に興味深いのだが、次々と出てくる描写はどれも細かく、あたかもあちこちに奴らが潜んでいるようにリアルで、想像してしまうとかなり恐ろしい。時の流れがねじれた謎の部屋が出現したり、着物の女が寝床に侵入したり…。常人ならば、逃げ出したまま帰ってきたくなくなるようなハプニングの連続が、その部屋には凝り固まっている。さらに最後は彼女自身が「あるもの」を家に招き入れたことによって、予期せず部屋が滅茶苦茶になっていく。

 私はこともあろうに、深夜に本書を読み始め、深夜に読み終えてしまった。描かれるストーリーはじっとりと恐ろしいながらも著者の語り口調は読みやすく、知人の体験談に耳を傾けるように気軽にページをめくってしまったのだ。だが本書はやはり怪談と銘打っているだけあって、落としどころはしっかりと(?)恐ろしい。小心者の私は朝日が昇って明るくなるまでひとりでトイレに行けなかった。

文=K(稲)