排泄の世話から夜間介護まで…家族の介護を迫られる子どもたち――増加する「ヤングケアラー」の実態

社会

公開日:2018/8/14

『ヤングケアラー―介護を担う子ども・若者の現実』(澁谷智子/中央公論新社)

 急速に高齢化が進み介護業界の人手が不足しているなか、家族による介護負担は今後ますます大きくなることが予想されています。従来は、家族にサポートを必要とする人が出たとき、メインとして介護を行う人の大部分は50代以降の人でした。ところが、世帯人数の減少やひとり親家庭の増加などにより、若い世代の人たちも介護者として大きな役割を担うようになってきています。特に注目されているのが18歳未満の子どもたち、“ヤングケアラー”です。ヤングケアラーと呼ばれる子のなかには小学校や中学校に通う年齢の子どもたちもいます。

 昨今、高齢者が高齢者を介護する“老々介護”が大きな問題となっています。しかし、その一方では学業や日常生活にまで影響を受けながら排泄の世話や夜間介護までを担う“ヤングケアラー”も増加しているのです。そんな表には見えにくい“ヤングケアラー”の現状や当事者たちの声、さらには国内外での取り組み事例などを知ることができる本があります。『ヤングケアラー―介護を担う子ども・若者の現実』(澁谷智子/中央公論新社)です。在宅介護を中心とする方針を国が掲げるなか、今後、介護とどのように向き合っていくべきかを考え、家族の在り方を問う1冊となっています。著者は主に社会福祉を研究し、大学で教鞭を執りながらヤングケアラーについても国内外で調査や研究活動を行っている澁谷智子氏です。

 そもそも、“ヤングケアラー”とは

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「家族にケアを要する人がいるために、家事や家族の世話などを行っている、18歳未満の子ども」

のことをいいます。大人がしている介護を手伝うといった程度ではなく、子ども自身が、大人が担うようなケア責任を引き受けて長期的に家族の世話をしていることを指すことばです。

 本書で紹介されている調査結果には、たとえば、ひとり親家庭で母親の病院の付き添いや介護を行いながら、母親に代わり料理や掃除、下の弟たちの世話をする中学生もいます。また、両親がいても父親が仕事でほぼ家を空けているため入院する母親のサポートを行っているという子どももいるのです。そして、そんな状況下にいる子どもたちは介護に明け暮れる日々のなかで授業に集中できなくなってしまったり、学校を休まざるを得なくなってしまったりすることも少なくないといいます。また、家族の世話のために家に早く帰らなければならず、介護への理解が難しい同世代の友人との関係が希薄になって孤立してしまうケースもあるのです。

 本来であれば、学業に専念し、友達と遊び、社会性を身に付ける年齢でありながら、その貴重な時間を介護にあてる子どもたち。勉学、交友などを犠牲にし、長く介護に尽くすことで、介護を終えた後、通常の生活に戻れなくなってしまう子どももいるといいます。

 しかし、子どもが家族の介護をすることを一概に悪いこととは言えず、専門家のなかでも対応への意見が分かれているというのも現状なようです。家族であればケアを第一優先として考えるべきであり、それは家族の助け合いの大切さを学ぶことにつながるという声もあります。しかし、他方では子どもには子どもの人生があるし、子ども時代にしかできないことを保障することが子ども自身にも周囲の大人たちの生活にも影響を与えるという意見もあるのです。

 また、介護される人に残された時間が短いため一緒にいる時間を優先させてあげるべき事情があったり、子どもの受け止め方や親の考え方がさまざまであったりと介護に対する個々の家庭の事情の違いもあります。

 さらに、ヤングケアラーの存在を知ると「親や周囲の大人たちは何をやっているのだ」といった声があがりやすく、それが当事者にとって負担になることもあると著者は指摘します。子どもに世話になり申し訳なく思っている気持ちに重ねて、さらに肩身の狭い思いをする親も少なくないのです。加えて、そもそも現状さえ信じてもらえないケースもあります。子どもが介護で忙しいなどという事情を理解できない大人に遅刻や欠席の理由を理解してもらえず叱責を受ける子どもたちもいるのです。

 自分が、わが子が、身近な子どもたちがいつ当事者となるかわからないヤングケアラー問題。他人事ではないこの問題のリアルな現状を知ることができる本書を読むことで、あらためて介護や家族の在り方について考えてみてはいかがでしょうか。

文=Chika Samon