どうすれば周囲の目を気にせず生きられる? 人生の悩みは世界一お騒がせなシンガーに教えてもらおう!

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公開日:2018/9/2

『お騒がせモリッシーの人生講座』(上村彰子/イースト・プレス)

 あなたはモリッシーを知っているだろうか? おそらく、洋楽に興味がない日本の若い世代には、さほど知名度が高くないだろう。しかし、80年代の英国を代表するバンド、ザ・スミスのボーカルとして、ロックファンからは熱烈な支持を得ている。ザ・スミスは1987年に解散したものの、モリッシーはソロとしても11枚のオリジナルアルバムを発表、そのうち3枚が英国チャート1位を獲得するなど、人気に衰えはない。

 そしてモリッシーはロック界随一の「お騒がせ男」である。過激な発言と、天邪鬼な行動は常に世界中の話題をさらってきた。人気ライター&ブロガーの上村彰子さんによる『お騒がせモリッシーの人生講座』(イースト・プレス)は、そんなモリッシーの伝記であり、悩める現代人に送る人生のテキストである。どうすればモリッシーのように、周囲の目を気にせず生きられるのだろう? 音楽ファンならずとも、本書から教訓は得られるはずだ。

 モリッシーといえば、執拗なまでに権力を憎み、何度も英国王室や政府を辛辣に批判してきた。彼の反骨精神の源は、決して明るくなかった学校生活にあった。本書では、ザ・スミス「The Headmaster Ritual(校長の儀式)」の歌詞が引用されている。

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「週の半ば校庭で/教師は足をぴしゃりと打ち/股間を膝蹴り/顔には肘鉄を食らわせる/夕食の皿より大きな青アザができる」

 驚くべきことに、この曲はモリッシーの中学時代をほぼ忠実に描いているのだという。当時の英国は完全なる「産業社会」。つまり、労働者階級の子どもであったモリッシーたちは暴力によって個性を奪われ、社会にとって都合のいい人間に矯正されようとしていたのだ。ただし、少年時代のモリッシーは暴力教師をただ憎むのではなく、彼らもまた「社会の敗者」だと考えるようになった。以降、モリッシーの人生は「常識」や「体制」との戦いの連続となる。

 モリッシーの趣味や嗜好をたどれば、彼なりの反抗手段は分かりやすい。モリッシーは厳格なベジタリアンとして有名で、ファッションは非常に個性的。雑誌の「ワーストドレッサー・ランキング」にもよく顔を出している。こうしたモリッシーの素行は「ロック・スターらしくない」とも評されるが、本人はそうした反応こそが狙いだったのだろう。著者はこう解説する。

服を買ってきて、髪型をそれっぽくして、「ロックぽい」かっこう、デートだとかパーティーだとか、「それなり」のかっこうをしてファッションをとり繕うことは、お金さえ出せば誰にでもできる。しかし自分の「スタイル」を創ることは誰にでもできることではない。

 そう、人々がモリッシーに惹かれるのは既存の価値観にとらわれない、自分だけの「スタイル」を確立しているからなのである。それは無個性な人間をよしとする英国社会へのアンチテーゼを体現することを意味した。

 そのほか、シュプリームのモデルに選ばれながらも企業側ともめたり、かねてから寄せられていた同性愛者ではないかという噂に「自分はヒューマセクシャルだ」と造語で反応したり、モリッシーの動向を追っているとまったく退屈しない。そんなモリッシーも2014年にはガン治療を告白しており、「老い」や「死」を意識する機会があったようだ。モリッシーの死生観を本人の発言から考えてみよう。

「死んだら、死ぬ。死ななければ、死なない。今は、調子がいい。最近の写真のいくつかを見ると、なんだかげっそりしている。でも病気だったらそうなってあたりまえじゃないのか?」

 モリッシーは何かにしがみつくことを絶対にしない。それが自分の命であっても。あまりにも美しい「諦念」こそ、彼の強さにつながっている。他人に期待せず、ありのままの自分を世間にさらすことを恐れない。そんなモリッシーに、あなたも人生を学んでみよう。

文=石塚就一