この指示はパワハラ? 部下に訴えられる?……実際に職場で起こった事例で「アウトorセーフ」を知ろう

ビジネス

公開日:2018/9/5

『すべての管理職必読! 困った社員対策マニュアル 最新トラブル事例と労基署対策』(安中繁:著/宝島社)

 昨今、日本では「働き方改革」が叫ばれるようになった。政府主導で、労働者が働きやすい環境を整えていこうと、さまざまな取り組みが行われている。しかし、世の中にいるのは何も「働く人」ばかりではない。労働者が働くための場所を提供したり、仕事を与えたりする「働かせる人」もいるからだ。働き方改革が進むなか、労働者と直接関わる管理職にとって、「いかに従業員と付き合っていくか」は大きな課題になるだろう。

『すべての管理職必読! 困った社員対策マニュアル 最新トラブル事例と労基署対策』(安中繁:著/宝島社)では、管理職が押さえておくべき基本的な知識から、最新のトラブルに関する対応までをわかりやすくまとめている。一番のテーマは「管理者は労働基準法(労基法)を知っておかなければいけない」という点だ。なぜなら労基法に反する行為をすれば、労働基準監督官に逮捕されてしまうからだ。この際、「うちの会社では」や「社則の定めでは」といった言い訳は一切通用しない。労基法とは、あらゆる企業が守らなければいけない法規だからこそ、「知りませんでした」は通用しないのだ。ところが、実際の労働現場では労基法を知らないがために、違反を見逃したり助長したりしている場合がある。

 たとえば、タイムカードの扱いだ。タイムカードを押し忘れた場合、タイムカードに記載されていない労働時間の給料を支払わなかった企業が、従業員による訴訟を受け敗訴している。タイムカードは労働時間を客観的に見るものではあるが、給料の支給は労働の実態に合わせる必要がある。タイムカードを押し忘れたのは従業員のミスだが、その分の給料を支払わないのは労基法違反である。または、会社の飲み会が「業務の一環」として、残業代の対象になったり労災の適用範囲となったりする場合もある。飲み会の場で、仕事に関する専門的な内容が話し合われていたり、上司から「絶対に参加するように」と命じられていたりすれば、残業代や労災の請求を拒むことはできない。使用者あるいは管理職の人間からすれば、「それってどうなんだ?」と感じることでも、労基法に反する行為なら、不利な立場になり下手をすれば罰則を科せられる場合もあるのだ。だからこそ、管理職は労働者の管理にあたり、労基法を熟知する必要がある。

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 本書では、最新の労基法改正についても踏み込んでいる。特に注意するべきなのは、いわゆる「2018年問題」と呼ばれる、法改正による派遣社員や契約社員の「無期転換申込権」の発生に伴うトラブルだという。5年を超える有期契約社員には無期転換申込権が生まれ、申し込みを受けた企業は断ることができなくなるため、権利発生前に「雇い止め」をしようとする企業が増える懸念がある。ところが、実際には妥当な理由なく有期契約社員を雇い止めすることは認められていない。もちろん、「無期契約にしたくないから」などという理由には正当性がない。だからこそ、すでに雇用している、あるいはこれから雇用する派遣社員や契約社員の働かせ方には細心の注意が必要になるはずだ。

 本来は守られるべき労基法ではあるが、企業的あるいは業界的な習慣から遵守されていない場合も少なくない。単に法律を知らないだけなら罪はないが、法律を知らないことは違反したという罪から免れる理由にはならない。違反があるのに問題になっていないなら、それは単に「誰も気づかなかったから」に過ぎない。労基法違反が表面化すれば、企業イメージが傷つくだけではなく、逮捕者が出るリスクもある点を忘れてはいけないだろう。本書は、具体的な事例を挙げつつ、労基法の知識や違反しないための知恵を与えてくれる。使用者や管理者はもちろん、「自分の会社は大丈夫だろうか?」と感じながら働いている人にも必読の1冊だ。

文=方山敏彦