その「むなしさ」を解決するには… 心が軽くなる三浦綾子のエッセイ集

文芸・カルチャー

公開日:2018/9/6

『一日の苦労は、その日だけで十分です』(三浦綾子/小学館)

 深い信仰に根ざしたその生き方から浮かび上がるのは、“愛”と“感謝”と“学び”の心。三浦綾子氏、没後20年を前に出版された最後のエッセイ集『一日の苦労は、その日だけで十分です』(三浦綾子/小学館)は、さまざまな思いを抱えて生きる私たちを勇気づけ励ましてくれる1冊です。

 三浦綾子氏(1922-1999)は北海道生れの小説家。肺結核の療養中に洗礼を受け、大ベストセラーとなった『氷点』『塩狩峠』などキリスト教に影響を受けた作品を多数発表しています。三浦氏の言葉は、20年の時を経ても色褪せず、「真に豊かに生きる」ことを教えてくれます。

■「むなしさ」は、生活を内部から蝕む病菌

 弱い立場の人々や道に迷う若者たちに寄りそう三浦氏は、「むなしさ」を一笑にふしてはいけないと、解決する道を照らします。「要求するばかりではむなしさから救われない。多くのむなしさは、くれない、ほしいという、不満と期待だけの生き方から発生するといっても過言ではないような気がする。ああしてあげたい、こうしてあげたいという姿勢こそむなしさを克服する」。「与うるは受くるより幸なりという聖句は真理である」と書いています。

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■「人との関わり方」の姿勢

 闘病中に文通していた白洋舎の創業者・五十嵐健治氏は、当時「名もない病人」であった三浦氏に「同じ人間であるという姿勢をもって」、手まめに手紙をくれたといいます。五十嵐氏は「相談にのってほしい」「お祈りください」というように、「寝たきりの病人に、何かをしてあげようではなく何かを、してもらいたいという形で関わってくれたのだ」とその存在の大きさを述べます。

■人間はひとりでは生きていけない

 同じクリスチャンである夫の光世氏は、「いつまででも待つ」と療養中の綾子氏にプロポーズしたのです。「愛されている実感、必要としてくれる実感から希望が生まれ不思議な力が出てくる」「近くにある愛や希望を見落としたり見失ったりしないでほしい」と三浦氏は述べます。夫の励ましにより完成した『氷点』誕生の裏話も読みどころです。

■若さとは柔軟であること

「若い時は自分のしていることは絶対正しいと信ずる傾向があり相手がどんな気持ちで言っているのかと推察する思いやりがなかった」と、小学校教師をしていた頃の苦い経験を語り、「若さとは本来柔軟であるということ。柔軟であれば必ず謙遜であるはずだ」と伝えます。

 三浦氏は「感謝できるタネを見まわそうとする姿勢が大切。それは誰のためでもなく自分自身の、かけがえのない一生を真実豊かなものにするため」と述べ、数々の文章を通して「どう生きるか」のヒントをくれます。女優であり作家である中江有里氏が「私のバイブルのような本です」と記した帯も、ぜひ味わっていただきたいです。

文=泉ゆりこ