イギリス、アメリカ、オーストラリア…その英語の“すごい”違い 語源で知る英語の世界

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公開日:2018/9/10

 ほとんどの日本人は、中学生になったあたりから「英語」の勉強を始めるが、学び始めの頃、例えば「そもそもなぜ『アルファベット』というのだろう?」といった、英語に対する「素朴な疑問」を抱いたことはないだろうか? この夏刊行された『語源でわかる中学英語 knowの「k」はなぜ発音しないのか?』(KADOKAWA)は、学校では教わらない英語の意外な世界が楽しめる“タメになる”一冊だ。


 今回の記事では、よく見聞きする「イギリス英語とアメリカ英語の違い」に着目。オーストラリア英語の話もまじえながら、日本語における「方言」のごとく、さまざまな点で“だいぶ”異なっている英語の興味深い世界をわかりやすく説明しよう。

■“古くて新しい”英語

 イギリス英語とアメリカ英語には、スペルやアクセントの違い、また、単語そのものの違いもあります。まずここで、下の問題を見てみてください。わからなくて当然の問題なので、「わかれば答えてみる」程度でかまいません。

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 アメリカ英語の「center」「theater」に対し、イギリス英語では「centre」「theatre」というスペルになります。
 たとえば「中心」は、イギリス英語の「centre」「theatre」のほうが元のギリシャ語・ラテン語に近いことがわかります。しかし、アメリカ英語では「e」と「r」の順番が入れ替わっていて、実際の発音の通りになっています。

 他にも、イギリス英語の「-our」が、アメリカ英語では「-or」になっていますが、イギリス英語のスペルは昔の発音の歴史を残しているのに対し、アメリカ英語では現在の発音に準じたスペルになっています。

 さらに、イギリス英語の「dialogue」に対して、アメリカ英語では「dialog」と書きます。これらの例では、アメリカ英語のほうが新しく、発音に準じた合理的なスペルになっています。

画像:shutterstock

 イギリス人がアメリカに移住した当初、アメリカ英語とイギリス英語に違いはありませんでしたが、時代と共にそれぞれの国で発音やスペルに変化が生じました。アメリカ式のスペルが今日のように定着した理由には、「アメリカの学問の父」の異名を持つ辞書編纂者ノア・ウェブスターが、1828年にアメリカ英語の辞書である『An American Dictionary of the English Language』を出版した影響が大きいと言われています。

 アルファベットの「Z」の名称は、イギリスでは「zed(ゼッド)」、アメリカでは「zee(ズィー)」といいます。「zed」はギリシャ語のゼータが古フランス語を経由して中英語の時代に入ったものです。

 一方、「zee」のほうは「zed」のバリエーションとしてイギリスで生まれた名称なので、「zed」と「zee」はイギリスで古くから両方存在していました。やがて、ウェブスターの辞書に掲載されることによって、アメリカでは「zee」が定着したと考えられています。

 しかし、必ずしもすべての面でアメリカ英語のほうが新しいとは限りません。「秋」のことをイギリス英語では主に「autumn(オータム)」と言うのに対し、アメリカ英語では一般に「fall(フォール)」と言います。

 イギリスでもアメリカに植民地を作っている頃は「fall」を使っていましたが、その後「fall」がすたれ、代わりにフランス語由来の「autumn」が広く用いられるようになりました。ですから、アメリカ英語の「fall」のほうが古い言葉を残しているということになります。このように、アメリカ英語は一面では新しく、別の面では古い英語を残しています。

 話は変わって、オーストラリアでは「Sunday」「Monday」を「サンダイ」「マンダイ」と発音します。このように「day」を「ダイ」と発音するのはなぜなのでしょうか? それについて探ってみましょう。

「日」を意味する英語「day(デイ)」は、ゲルマン祖語の「*dagaz(ダガズ)」に由来し、古英語では「dæg[dæj](ダイ)」と言いました。

 ドイツ語で「こんにちは」は「Goten Tag!(グーテンターク!)」と言いますが、ゲルマン祖語の「*dagaz(ダガズ)」の「g」の文字が残っているものの、発音は語尾で軽くなって[k] の音になっています。古英語では、語尾の「g」は、発音はもっと軽くなって半母音の[j]に変化していました。

 18世紀の産業革命を迎えたイギリスでは、社会の変化によって民衆の生活状態が悪化したため、犯罪が急増しました。当時はハンカチを1枚盗んだ罪で絞首刑になるような法律で取り締まられていましたが、厳しすぎるということから死刑ではなく流刑にするという法律が制定され、大勢の人がオーストラリアに流されました。

 その当時はイギリスでも「today」を「トゥダイ」と発音していたわけですが、それがオーストラリアに移った人が使い続けて現在まで残り、イギリス本国では発音が変わってしまいました。つまり、オーストラリアのほうが本来の英語の発音をとどめているわけです。

 余談ですが、「day」の発音に関してこんな小噺があります。ヨーロッパの前線にある野戦病院で2人の負傷兵が会話を交わしました。イギリス人兵士いわく、“I came here to die!”(俺はここに死にに来たようなものだ!)。それを聞いたオースラリア人の兵士いわく、“Oh! really? I came here yesterday.”(本当かい? 俺はここに昨日来たよ)。

 オーストラリア人は、この手のジョークを耳にタコができるくらい聞き飽きているので、彼らには話さないほうが無難でしょう。

『語源でわかる中学英語 knowの「k」はなぜ発音しないのか?』
原島広至/KADOKAWA

英語の先生に教えてもらえなかったこと、この本で丸わかり!――August(8月)は「ローマ皇帝アウグスト」に由来するといった語源にまつわる話や、makeを「マケ」ではなく「メイク」と読む理由、knife(ナイフ)のkを発しない理由、といったような「発音」についての疑問、また、なぜbe動詞はam, are, is のように違うのかといった、中学で英文法を習ったときに漠然とした疑問を抱きながらも「覚えなきゃ」とただひたすら暗記していたようなトピックを、英語の語源からわかりやすく解説する一冊。