「物欲捨てて!」「尊い」──“推し”を支える追っかけ女子たちの生きざまを見よ!

マンガ

更新日:2018/10/1

『舞台追っかけ女子 推しが元気でごはんがおいしい』(畑ヶ中あいこ/双葉社)

 最近よく「2.5次元」なるフレーズを耳にするようになった。別に学術的な話ではなく、いわゆる「アニメやゲーム、漫画などを原作としたミュージカルなどの舞台」を指す。要するに「2次元の作品を3次元の舞台にする」といったところから、そう呼ばれるのだろう。近年、人気の漫画やソーシャルゲームなどを原作として、非常に多くの作品が舞台で演じられるようになった。そして、それを支えるのは「追っかけ」と呼ばれるファンたちである。『舞台追っかけ女子 推しが元気でごはんがおいしい』(畑ヶ中あいこ/双葉社)は、そんな「追っかけ女子」の心理や生態を面白おかしく描いたコミックエッセイだ。

 このエッセイ、現役「追っかけ」の「ゆめ」と「アイコ」が、追っかけ初心者の「ぽん」にアレコレ教えていくという筋立てで展開していく。基本的に現役のふたりは「沼」にハマっている。「沼」とは「2.5次元の世界」であり、要は「2.5次元(の魅力)の底なし沼にハマっている」ということだ。そんなふたりの武勇伝を聞かされつつ、徐々に2.5次元に興味を持っていくぽん。私もそうだが、ぽんはいわば2.5次元に疎い読者の代表なのである。そういう観点で、私が本書で衝撃を受けた内容から「追っかけ女子」の生態を紹介したい。

●「物欲捨てて!」

 基本「追っかけ女子」は目当ての舞台チケットから「推し(好きなキャラ、役者)」のブロマイドまで「物欲」だらけである。そしてそんな人々の間で都市伝説のように語られているのが「物欲センサー」の存在。強い物欲に対して働くセンサーで、「欲しい」と思えば思うほど手に入らなくなるのだ。ゆえにランダム性の高いガチャなどのアイテムを買う場合、目当ての商品がある場合はイキオイ「物欲捨てて!」となるのである。しかし残念なことに物欲を捨てようが捨てまいが、結果は変わらない。入手できるか否かは、運頼みなのである。さらに目当ての商品が手に入った場合でも、追っかけ女子たちの購買意欲は衰えない。「無限回収」といって、「推し」のグッズなら同じ物を何個でも手に入れたい人たちもいるのだ。それは「推し」が大好きということの他に、自分たちがお金を使うことで舞台を支えているという感覚があるから。人気のバロメーターはやはり興行収入なので、舞台存続のために追っかけ女子たちはお金をつぎ込むのである。

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●「生存確認の通報された」

 舞台には公演期間というものがあるわけだが、熱烈な追っかけ女子になると「全通」まで視野に入る。「全通」とは「公演全部に通うこと」で、ここまで来れば立派な「沼」の住人である。そして公演場所が現住所から遠い場合は、ホテルや友人の家など公演場所の近くに滞在して観劇するのだ。そのため長く家を留守にすることもあり、洗濯物など出しっぱなしにしていると、近隣から生存確認されてしまうという事態に。それでも生の舞台だからこそ、同じ公演は二度とないのであり、追っかけ女子たちは通わずにいられないのである。

 まあお金の使いかた含め、追っかけ女子の行動に対してはいろいろな意見があるだろう。しかし本書でアイコが「推しが元気だと生きるのが楽しい」と語るように、推しを応援することが彼女たちのエネルギーになっていることも事実だ。そして舞台の若手俳優たちもそんな応援を受けて、より頑張ろうと努力する。これはウィンウィンの関係なのだ。2.5次元はもちろん、ソーシャルゲームだろうがアイドルだろうが、生きることを楽しくしてくれるなら、それでいいじゃないか。

文=木谷誠