ストーカー、DV、セクハラ被害にあったら… “警察に相談してもムダ”は本当なのか?

社会

2018/10/4

『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』(小川たまか/タバブックス)

 ネットでは毎日のように「ジェンダー」が炎上のタネになっている。誰もが発言できる時代になったからこそ、その議論はまさしく玉石混交で、真っ当な主張もあれば、ほとんど言いがかりに近いものまである。会社組織で働いたことのない筆者(23歳・男性)は、正直これまでの生活の中で「これは女性差別だな」と強く感じたことはない。

 だから、リツイートで回ってくる主張強めの女性の発言にひいてしまうし、つい「めんどくさいな」と思うこともある。でも、いつまでもこんな態度でいたら、大切な何かを見過ごしてしまうのではないか…。そんな危機感から、本書『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』(小川たまか/タバブックス)を手にとった。読み進めていくと、自分がこれまで認識していなかった(「ほとんどない」と思っていた)現実が次々と見えてきた。

■常習者は痴漢で“人生が終わらない”ことを知っている

 筆者は痴漢をしたいと思ったことがない。むしろ、世の大半の男は、自分が痴漢に間違われることを心配しているだろう。ではなぜ、痴漢の被害は後を絶たないのか。

 警察庁の調査によれば、痴漢被害に遭ったことのある女性のうち、相談・通報した人は10人に1人(著者の実感ではもっと少ないという)。そして、加害者は、捕まったとしても初犯ではまず実刑にならず、弁護士が示談にすることも多い。その場合、もちろん前科はつかない。著者が被害者を取材していると、「手慣れた様子で示談を持ちかけられた」なんて話はよく聞くそうだ。つまり、痴漢常習者たちは、どんな子から被害を訴えられにくいか、捕まってもどうすれば逃げられるかを熟知した上で、日々その行為を行っている。ネット上で繰り広げられる痴漢に関する議論では、しばしばこうした痴漢常習者たちの視点が抜け落ちている。

 痴漢被害者と、痴漢の実態を知らない人とで「女性専用車両はアリかナシか」といったことを議論し、ときには対立しあっていることが、私は悲しいし怒りを覚える。実際に痴漢行為を行っている加害者は、こんな議論には加わらず、のうのうと今日も痴漢し、しかも楽しそうにツイートしている。

 次なる被害を防ぐためには、捕まえて罰することが一番だが、それが無理でも「拒絶の意思を示すこと」が大切だと著者は語る。

■“警察に相談してもムダ”は本当か?

 ストーカー、殺害予告、DV、強制わいせつ未遂など、男女間のトラブルはさまざまある。「痴話げんかと思われそう」という人もいるかもしれないが、それが犯罪行為であれば警察に相談したほうがよい。だが、警察でも「大したことじゃないでしょ」と言われてしまい、取り合ってもらえない場合があるという。著者は、これまで見聞きしてきたことや、自分の経験から、警察に相談する際のポイントを語っている。

・1人で行かない方がいい。
・できれば年長者、女性の場合はできれば信頼できる男性に同行してもらい、その人からも事情を説明してもらった方がいい。男女関係の相談の場合は特に。
・相手が警察官だからといって、ヒアリング能力についてあまり期待しすぎない方がいい。自分で時系列を紙にまとめておいたりするのも大事。
・ネットの書き込みやメールはスマホで見せるのも必要だけどプリントアウトもしておいた方がいい。

 どれも納得できるものだが、年長者や男性が付き添うことで対応が変わるというのは、なんとも皮肉的な現実だ。それでも、目の前に深刻なトラブルがあるのなら、社会が変わることを待っている時間はないだろう。

 世間知らずの筆者は、本書のおかげで“見えていない世界”を知り、ジェンダーにまつわる問題の認識を改めることになった。それと同時に、起きている問題の原因をきちんと分析し、提言していく力の重要性を改めて感じた。著者の言葉には、人の認識や、社会を変えていく力がある。

文=中川 凌