日本経済を救うカギは中華料理!? ラーメン、ギョウザに秘められた日本の底力

社会

2018/10/10

『中華料理進化論』(徐航明/イースト・プレス)

 1990年代のバブル崩壊後、日本経済は長期停滞期が続いている。この停滞期間は「失われた20年」と呼ばれているのだが、2020年が目前に迫る今、そろそろ「失われた30年」に突入しそうな気配である。そうした状況を打開するためのヒントを経済学の観点から語る本はさまざまあるが、本稿でご紹介する『中華料理進化論』(徐航明/イースト・プレス)は、「日本における中華料理の進化」という食文化の視点から考察を展開している風変わりな一書だ。

 まず、日本における「中華料理店」と「中国料理店」の違いをご存じだろうか。「中華料理」は、中国から日本に伝わり、日本人の味覚に合わせて変容した料理のことで、いわゆる「町中華」と呼ばれるラーメン、チャーハンなど庶民的なメニューを出す店が中心となる。一方の「中国料理」は、より本場の味に近いもので、ホテルのレストランなどの高級店が中心だ。

 著者の徐氏によれば、中華料理は、中国から伝播してきた料理がまず日本で受容され、日本人の口に合うように変容していった。そしてそれが拡大し、一般化して定着したものだという。その代表的なものがラーメン、焼きギョウザ、麻婆豆腐などだ。

 こうしたプロセスを経て、現在は“日本の中華料理”がもともとの発祥である中国やその他の国に広まっていく逆伝播、新伝播の流れにあるという。確かに、「一蘭」や「一風堂」などのラーメン店が海外展開で成功をおさめているほか、日本の有名ラーメン店に中国人の観光客が列をなす光景はもはや日常的なものになっている。

 日本人は、突出したアレンジ力とチャレンジ精神で、独自の中華料理を生み出した。しかしそうしたもともと持っている底力を、現在の日本企業は見失ってしまっているのではないだろうかと徐氏は分析する。そのよい例が「中華スマホ」と呼ばれる中国ブランドのスマートフォンの台頭だ。

 中華スマホは性能のバランスの良さ、コストパフォーマンスの高さで、日本国内でも人気が高い。一方、モノ作りを得意としていたはずの日本のメーカー製のスマートフォンは、残念なことに、世界どころか日本でもマイナーな存在となってしまっている。

 日本の中華料理は、新たな伝播や世界各地の料理との融合で、さらなる進化の可能性を秘めている。しかし現状では、もっとも店舗数が多い町中華のメニューは固定化し、停滞している。中華料理を作り上げた日本人のチャレンジ精神とアレンジ力は、日本の成長を支えてきた精神力と共通するものだと徐氏は語る。それならば、中華料理の進化と発展の過程から、未来への針路をも見いだせるのではないかというのだ。

 日本が停滞を抜け出すヒントが、我々の大好きなラーメンやギョウザにあるのかもしれないというのは、少々突飛にも思える。しかし本書で解説されているそれらの料理が普及していった背景には、新技術の開発や調理法・調味料の発明など、日本の経済成長を支えた人々の熱い思いや創意工夫が確かにあったことをうかがい知ることができる。

 本書では、そうした中華料理の歴史や現状の分析のほか、中国の家庭料理「家常菜」のレシピも掲載されている。中華料理でお腹を満たしながら、その料理が生まれ育った背景に思いを馳せ、明日の日本を支える活力をいま一度取り戻したいものである。

文=本宮丈子