きっかけは愛犬の病気から――「犬の車いす」を作る仕事を始めた夫婦と、犬たちの感動のドラマ

暮らし

2018/10/18

『犬の車いす物語』(沢田俊子/講談社青い鳥文庫)

 犬と暮らすのは本当に楽しい。彼らは我々に、新鮮な驚きと笑顔を与えるだけでなく、空気を柔らかくする天才でもある。

 だが、彼らも生き物だ。予期せぬ病気や怪我をすることはあるし、高齢になるほど問題は頻発する。足腰が弱った犬の世話は、体力と忍耐力が必要になるし、深夜に徘徊を繰り返す彼らの対処に右往左往した飼い主も、きっと多いと思うのだ。

 そんな時、犬と飼い主が最期まで気持ち良く過ごせるよう、親身にサポートしてくれる人がいるならば、どれほど助けられるだろう。

『犬の車いす物語』(沢田俊子/講談社青い鳥文庫)は、愛犬が自由に歩けなくなったのを機に、犬の車いすを作る仕事を始めた川西さんご夫妻の挑戦が描かれたノンフィクションだ。

 川西英治さんと仁美さんご夫妻は、愛犬であるダックスフントのスイーピー(当時8歳)が、持病の椎間板ヘルニアの進行で、自由に歩けなくなったことに心を痛めていた。

 獣医に車いすを勧められるも、体に合っていない部分があり、嫌がることがあった。インターネットで探すが、値段が高い。そこで英治さんが症状と体形に合った理想的な車いすを作ったところ、スイーピーは後ろ脚を車いすに支えられて、軽々と歩くことができるようになった。

 車いすに乗って散歩をするスイーピー。そうすると「うちの子にもほしい」と声をかけてくる人が現れる。

 ダックスフントやコーギーのように、胴長短足の犬種には、椎間板ヘルニアという病気がよく起こる。最初は腰の痛みから始まるが、治療をしても、下半身がマヒしていき、歩けなくなることがある。

 同じ思いの人がたくさんいるのでは……と感じたご夫妻は、本格的に車いす製作に取り組むことを決意。英治さんは軽量で丈夫なうえ、価格が安い製品を目指し、仁美さんも、病気の犬を抱える人たちの相談に乗るため「動物看護師」と「動物介護士」の資格を取得した。

 第2章では、川西さんの車いすに助けられた犬がたくさん登場する。また犬だけではなく、生後4か月で腰マヒの症状が出て歩けなくなった、ヤギのアルタのエピソードも語られる。

 動物とその家族には、皆、涙なくして語れないドラマがあった。

 交通事故にあったチワックスのマメや、脳梗塞で左前脚が動かなくなったパピヨンのベル。

 二輪車から、新しく四輪車の車いすを作ってもらい、ゆっくりと自力で歩く、子どもたちの人気者であるコーギーのマルル。

 かけもちで仕事をしつつ、たくさんの保護犬の世話をする女性に引き取られた、車いすに乗って優雅にトイレ散歩に行く保護犬のシンディー。

 車いすに足を乗せた途端、勢いよく走り出す嬉しそうな犬の描写に惹かれたのはもちろんのこと、車いすが高額だったり、体に負担がかからないか不安だったり、悩みを抱える飼い主の不安を解消し、親身になって犬の様子を聞く川西さん夫妻の優しさに、込み上げてくるものがあった。

「工房スイーピー」の評判はどんどん広がり、2017年までの4年間に、1500台の車いすを手作りしたそうだ。また、海外からの問い合わせもあり、現在100頭の犬が車いすを待っているのだという。

 犬と一緒に暮らすと、厳しく辛い出来事にも遭遇する。人間の身勝手さに腸が煮えくり返ることや、自身の無力さに呆然となり、悔しくてたまらない瞬間もある。だが、犬とその家族の幸せを考えながら、明るく前向きに活動の幅を広げる川西さんご夫婦の姿を思うと、ペットにとっての幸せを改めて考えさせられると共に、自分も誰かの役に立つ仕事をしたいと願わずにはいられなかった。

 子どもから大人まで、多くの人の心にしみる一冊だ。ぜひ読んでみてほしい。

文=さゆ