開発の止まった白い街で、大人になる少女――。生々しく息苦しい青春小説

文芸・カルチャー

2018/10/19

『しろいろの街の、その骨の体温の』(村田沙耶香/朝日新聞出版)

「大人になるって、どういうこと?」

 子どもに聞かれても、答えるのは難しい質問ではないだろうか。

『しろいろの街の、その骨の体温の』(村田沙耶香/朝日新聞出版)は、その答えの一端をのぞかせてくれる、思春期の少女の濃厚な心情を紡いだ小説である。

 開発が頓挫して、「墓場」のようになった新興住宅地に住む中学生の結佳(ゆか)は、クラスで「下位」の存在。地味で目立たない女子グループに属し、自分のことを(おそらく、実際はそうでもないのに)かなりのブスだと思っており、他人に迎合して学校生活を送っている。

「空気を読んで」生きることが「正しい」のだと思い込み、結佳はクラスのカースト制度に従順に従い、そこからはみ出すことを恐れていた。

 しかし心の中では、そういった教室という小さな世界を見下してもおり、「皆の価値観をバカにしながら、その価値観で裁かれること」に怯えるという、屈折した気持ちを抱いている。

 結佳の秘密は、小学校からの知り合いで、カースト上位の人気男子生徒、伊吹を「おもちゃにしてること」。大人の真似をして、キスをしたりする2人の秘密の関係は中学生になってからも続いたが、ある時、伊吹がこのおかしな関係を解消して、ちゃんとした恋人同士になりたいと言い出す。

 結佳は衝撃を受けた。

 カースト下位の自分と上位の伊吹が付き合えるわけがない。クラスの笑い者になる。だが伊吹は、そういうことを全く理解できない単純な「幸せさん」。伊吹の申し出を拒絶した結佳は…。

 本作は「少女が女の子へと変化する様子」を丹念に描いている。だが『殺人出産』や『コンビニ人間』の著者とあって、爽やかで清々しい青春小説ではない。

 少女の「性」について、ごまかすことなく活写している様子はどこか生々しさがあるし、残酷でシビアな教室内の序列と、それを乱すことを禁忌のように怯える生徒たちの様子は、息苦しささえ感じる。「美化していない」青春が、本作には詰まっていると思う。

 だがその一方、少女マンガのような胸キュンもあったりする。

「クラスの人気者の男子が地味で目立たない女子を好きになる」というのは、女子なら嫌いな人なんていない(はずの)展開だ。明るく無邪気な伊吹が、冴えない女子の結佳に好意を抱き、清々しくて純真なアプローチをする様子は、読んでいてトキメキを覚えた。

 結佳の心情を余すところなく描き切った「生々しさ」と、こういった少女マンガの王道的胸キュンが合わさって、本作はより一層魅力のある物語になっているのではないだろうか。文芸に慣れていない方でも、入りやすいかもしれない。

 さて、「大人になるってどういうこと」なのか。

 本作のこのセリフに、私は「大人への一歩」を感じる。

 言葉は色鉛筆に似ている、と私は思った。今までは、太陽を塗るときは赤色、海を塗るときは青色の色鉛筆を、なんとなく大きな力に従って取り出していた。けれど、太陽を真っ青に、海を真緑に、好きな色鉛筆を取り出して塗りあげていってよかったのだ。

 年齢的にはしっかり大人でも、世界がどんな色なのか。ただ大きな力に従って見ている方も多いのではないだろうか。自分の見えた通りに、色を塗っていいのである。

文=雨野裾