ヒキガエルのジュースに虫イタリアン……。衝撃の “世界のヤバい辺境メシ”

食・料理

2018/10/21

『辺境メシ ヤバそうだから食べてみた』(高野秀行/文藝春秋)

 名前を聞いても何だか分からない料理。いまだかつて嗅いだことのない香り。初体験の食材。そして口にしたときの「ウマっ!」「うわ、マズい……」「え……何コレ……?」という反応。

 不安、緊張、興奮。さらには困惑、落胆までも味わえる「食べたことのない料理を食べる」という体験は、旅の一つの醍醐味だ。綿密にリサーチをして美味しそうなものだけを食べる……というのもいいが、「ヤバそうだけど食べてみよう」という挑戦ができるようになると、旅の食事の楽しさは一気に大きくなる。

 ノンフィクション作家・高野秀行の『辺境メシ ヤバそうだから食べてみた』(文藝春秋)は、そんな“未知の料理を食べる楽しさ”を追体験できる辺境グルメ紀行だ。なお著者の未知の料理への向き合い方は、「ヤバそうだけど食べてみよう」を超えて「ヤバそうだから食べてみよう」の境地に到達。だから、出てくる料理も本当にヤバい。

 ヒキガエルをミキサーで液状にしたペルーのジュース。コンゴのサルの燻製肉。タイの虫を使ったイタリアンに、ヤギの胃液のスープ……。当然、美味しいものだけでなくマズいものもある。ものすごく手間ひまかけて作ってもらったのに、食べてみて「ふつうだ!」と驚いてしまう料理があるのも可笑しい。カエルのジュースでは、「甘さは何かをごまかそうという不自然さに満ちており……」というグルメ本ではまず見ない描写に爆笑してしまった。

 なお、サルの燻製肉はコンゴの長距離バスのなかで「せんべいやみかんをお裾分けするかのように」回ってきたという。カエルのジュースはペルーの首都・リマに専門の店があり、老若男女が普通に頼んでいたそうだ。

 本書は出てくる料理だけでも衝撃的だが、その裏側にある文化まで丁寧に掘り下げて描写しているところが面白い。決してゲテモノを食べ散らかし、それを書き散らかした本ではない。むしろ、ときに残酷に思えてしまう料理も、「今の都市文明に生きる私達の基準で軽々に善悪の判断を下すべきではない」ということが理解できる本でもあるのだ。

 見知らぬ土地で、その土地の人達が食べている謎の料理を食べてみる。それは「自分と異なる文化の人々を知ろうとすること」であり、「自らの常識を投げ捨てて、相手の文化に身を委ねてみること」でもある。それは、とても勇気と度胸のいる行動だ。

 そうした行為を繰り返すことで紡がれた著者の文章は、だからこそ文化の奥深くまで入り込んでいく。そして、その文章に触れた私は、最初は「気持ち悪ぃ……」「信じられない!」と思えた食習慣にも、ある種の温かさや親しみも感じることができた。

 ちなみに、お裾分けされたサルの肉を躊躇なく食べたりすると、周囲からは歓声が上がり、一気にその世界に溶け込めるそうだが、溶け込みすぎてカネをたかられたり騙されたりもするそうなのでご注意を。

文=古澤誠一郎