執事喫茶はどうして生まれた? 日本で物語の主人公になった執事

文芸・カルチャー

2018/10/20

『日本の執事イメージ史 物語の主役になった執事と執事喫茶』(久我真樹/星海社・講談社)

 あなたは「執事」が登場する物語と聞いて、どんな作品を想像するだろうか。『謎解きはディナーのあとで』(東川篤哉/小学館)や、マンガなら『黒執事』(枢 やな/スクウェア・エニックス)が有名だ。ちなみに、筆者が最初に触れた執事作品は、『ハヤテのごとく!』(畑 健二郎/小学館)。同作は、巨額の借金を負う少年・綾崎ハヤテが、大富豪の少女・三千院ナギに借金を肩代わりしてもらい、彼女の執事になる…というストーリーだ。こうした作品において、執事は当たり前のように物語の主役を務めている。

 だが、本来の執事は、あくまで主人に仕える脇役であり、フィクションにおいてもかつては同じだった。それでは、現代の物語の中で描かれている執事像は、どこから生まれてきたのだろうか。本書『日本の執事イメージ史 物語の主役になった執事と執事喫茶』(久我真樹/星海社・講談社)は、その圧倒的な探求心をエンジンに、日本の“執事のイメージ”がどう変化してきたのかを考察している。著者は、『日本のメイドカルチャー史』(星海社・講談社)や『英国メイドの世界』(講談社)などで知られる英国文化の研究者・久我真樹氏。本稿では、その膨大な分析の中から、執事ブームにおける“2つの重要なターニングポイント”について紹介する。

■執事ブームのカギは“低年齢化”

 執事ブーム以前にも、執事はたくさんの作品に登場していたが、その時代の執事たちは、仕える相手が「裕福な家に生まれ、使用人が仕える立場である」ことを示すための脇役だった。ところが、著者によれば、1990年代から次第に脚光を浴び始め、登場する執事の“低年齢化”によって物語の主役へと変化していくという。

 その先駆けとなったのが1991年連載開始の『伯爵カイン』(由貴香織里/白泉社)。本作に登場する執事のリフェール・ラフィットは、準主役として物語の根幹に関わりながら、主人公の重要なパートナーとなる青年執事だ。現代の執事作品に通じる要素がたくさん入っている。それまでの執事は、長年経験を積んだ「じいや」であったが、こうした流れを汲み、先述の『ハヤテ』のように、青年・少年が執事になる設定の作品が増えていく。

■執事喫茶はこうして生まれた

 執事ブームを語る上で欠かせないのが「執事喫茶」の存在だ。2000年代半ばにメイド喫茶が流行する中で、女性たちから「男の子が店員をやる逆バージョンがあったらいいのに」という声が上がっていた。こうした盛り上がりを受け、2006年3月に日本初の執事喫茶「スワロウテイル」が誕生する。創業に向けた動きを発信するブログでは、ネットからも意見を取り入れながら、理想の執事喫茶を作るために企画を練り上げていった様子が残っている。執事としてのクオリティも徹底的に追求し、開店までの2カ月間で接客や紅茶の知識を覚えさせたという。こうした取り組みは、各種メディアにも積極的に取り上げられ、執事ブームに大きな影響を与えた。

 本書は、380ページ以上ある大変な力作で、とてもひとつの記事で紹介しきれる内容ではない。日本でのイメージの元となった本格的な「英国執事」の実像の紹介から始まり、著者が“日本の3大執事作品”だと語る『黒執事』『メイちゃんの執事』『謎解きはディナーのあとで』の解説、海外ドラマや映画の解説、さらに「なぜ執事といえばセバスチャンなのか?」といった豆知識にいたるまで、とにかく「執事」に関するあらゆる情報が詰まっている。もしあなたが「執事」という言葉にときめきを覚えるならば、ぜひ本書を手に取ってみてほしい。見逃していた名作に出会ったり、新たな執事の魅力に気づいたり…と、新たなうれしい発見がたくさんあるはずだ。

文=中川 凌