幸運なヒットが災いを呼ぶ――倒産する企業が必ず歩む“破綻の法則”とは?

ビジネス

公開日:2018/11/1

『なぜ倒産 23社の破綻に学ぶ失敗の法則』(日経トップリーダー:編/日経BP社)

 大企業の経営者や著名人たちのインタビューを、テレビやネット記事でよく見かける。なぜ成功したのか苦労話を交えながら語る姿に、「なるほど参考になるなぁ」と感心してしまう。

 しかしそれらの多くは、成功するだけの環境が整っていたり強烈なバイタリティーがあったり、一般にはマネできない素質と運が隠れている。彼らの話は“ヒント”にすぎない。

 一方、失敗から学べることは山ほどある。物事の失敗には必ず「法則」が隠されており、それを解き明かせば二度と繰り返さない“特効薬”になる。

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『なぜ倒産 23社の破綻に学ぶ失敗の法則』(日経トップリーダー:編/日経BP社)は、中小企業23社の「破綻の定石」を集めたものだ。本書に載せられた“倒産の事例”は絶対に他人事ではなく、自分の会社が同じ状態に陥ったらお先真っ暗といっても過言ではない。

 それほど“失敗”には“再現性”があり、世の倒産企業の多くが似たようなプロセスを踏んで最期を迎えてきた。この記事では本書より2つ、失敗の「法則」をご紹介したい。

■【破綻の定石1】幸運なヒットが災いを呼ぶ

 いつの時代も便利グッズが誕生し、誰もが手にするブームになる。寝具・寝装品などを製造販売していたヒラカワコーポレーションは、2007年に「ひんやりジェルマット」を生み出した。寝苦しい夜にひんやりとした肌触りで暑さを和らげる冷感寝具の商品は、東日本大震災による節電意識の高まりをきっかけに、製造が追いつかなくなるほどのヒットとなった。

 この結果、ヒラカワコーポレーションの売上高は、2011年1月期の約20億円に対し2012年1月期は42億円超えと、たった1年で2倍以上になった。大儲けしたのだ。しかしここで道を誤った同社は、破綻へと突き進む。

 まず積極的な設備投資を行った。福島県内に工場を設立し、本社を5階建てビルに移転。その他、積極的に増産体制を整え、「ひんやりジェルマット」以外にも様々な商品を打ち出した。そのおかげで2015年1月期には50億円以上の売上高を達成。

 しかし“災い”は確実に近づいていた。50億円以上の売上高を達成したものの、純利益は2000万円に満たない。その理由は、利福の薄い寝具小物や雑貨に力を入れたことだ。「売上高を伸ばしてほしい」という融資元金融機関の進言もあったようだが、純利益が伸びなければいつ赤字に転じてもおかしくなかった。

 同社は“2匹目のどじょう”を狙って「アイダーウォームス」を新発売したが、「特許侵害」などの不運が重なって空振り。その後、売上高はどんどん減少し、2016年1月期には36億円、約1億4000万円の赤字を叩き出してしまう。同年11月には倒産となった。

「ひんやりジェルマット」は“未曽有の大災害”によって生まれた“特需”にすぎず、ブームが過ぎれば売上も落ち着く。経営陣はそれを見極めたうえで、どれほど設備投資が必要か思案すべきだったが、どうやら見誤ってしまったようだ。

■【破綻の定石2】1社依存の恐ろしさ

 経営者やフリーランスならば、1つの取引先だけから仕事を引き受け続けるリスクを痛感しているはずだ。そことの関係が終われば一気に売上や利益が0になり、路頭に迷う。

 イイダは精密板金と機械組み立てを行う会社として1956年に創業。複写機大手の1次外注先になったことを契機に成長を加速させた。2001年3月期には売上高165億円を確保。複写機大手の信頼が売上高となって表れた。

 しかしどれだけ信頼が厚かろうが、時代の流れに対応できなければ会社は存続できない。リーマン・ショックや円高の影響で、複写機大手は経営を見直すことになった。海外での部品製造・組み立てを本格化し、国内での製造拠点を統合・集約したのだ。

 イイダは複写機大手の1次外注先として、2次外注先の取りまとめを行っていたのだが、大手の経営見直しによって立場が微妙になった。今の時代、組み立てだけならば2次外注先に直接依頼しても問題ない。イイダに仲介させる意味、つまり“付加価値”が求められた。

 それに応えられなかったイイダは、大手からの受注を大幅に失って売上高も激減。晩年は毎年30億円の減収となり最期を迎えた。大手1社に依存する恐ろしさを痛感する。

 時代は常に変化する。その度に業界の構造が変化し、求められる価値が変わる。それに対応するのが経営者の仕事だ。1社に依存し続け、さらに時代の流れに対応できない会社は、イイダの二の舞になるはずだ。

 ここまでの内容は本書の一部にすぎない。本書には全部で11の「破綻の定石」が紹介されており、その事例として23社の“最期”が記されている。

 もしあなたの会社が本書の事例と似た道を歩み始めたら、今すぐ経営陣に進言なり、転職活動を始めるなり、行動に移そう。破綻の法則はかなり高い確率で発動する。本書にこんな言葉がある。

成功はアートだが、失敗はサイエンス

 繰り返すが、物事の失敗は再現性が高い。本書は決して他人事ではない。絶望的な人口減少で日本経済はこれから厳しい冬の時代に入る。今まで以上に企業を取り巻く環境は過酷になるだろう。ビジネスマンならば本書を読んで、自身の身を守る術にしてほしい。

文=いのうえゆきひろ