着替えや入浴を拒否、暴力を振るわれても…65歳以上4人に1人。認知症の家族と暮らすには

暮らし

更新日:2018/11/6

『認知症と笑顔で暮らす本』(内藤孝宏、西村有樹、浅岡雅子、福地誠/洋泉社)

 もし家族の誰かが認知症を患い一緒に暮らすことになったとき、その途方もない負担を想像できるだろうか。筆者自身、今から10年ほど前に認知症の祖母と暮らした経験がある。いつも笑顔で優しかった祖母が、認知症が進行するたびに別人に変わっていった悲しさは、いまだに鮮明に思い出せる。

 失禁を繰り返すのに老人用おむつを嫌がり、自身の娘である筆者の母親に対して「あんた誰や?」と冷たく接し、気に入らないことがあれば唾を飛ばして怒って泣いて…。この他にも書ききれないほどある。こんな生活が毎日続いて、やがて家族全員が疲弊してしまった。

 超高齢社会を迎えた日本は、65歳以上の4人に1人が認知症の時代に突入するという。認知症と一緒に暮らす“介護”の機会が誰にでも訪れるかもしれない。そのとき、変わり果てた肉親と“笑顔”で暮らす自信はあるだろうか?

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 『認知症と笑顔で暮らす本』(内藤孝宏、西村有樹、浅岡雅子、福地誠/洋泉社)は、タイトルの通り、認知症と笑顔で暮らすヒントを授ける1冊だ。

■認知症の介護の基本は、「要求の受容と傾聴」

 本書には「認知症に正しく対処するための10のケーススタディー」が記されている。このうち2つだけ取り上げたい。

【case2 何度も同じことを繰り返し言う】

 認知症患者の代表的な症状、何度も同じことを繰り返し言う。覚えたことを思い出せない”物忘れ“ではなく、そもそも新しい物事を覚えられない”記銘力の低下“が原因となり、ともに暮らす家族を困らせてしまう。

 しかし、それにイラついて「さっきご飯は食べたでしょ!」と怒ったように返事をするのはNG。認知症患者は自身の発言を覚えていなくても、「自分は否定された」という気持ちを覚えている傾向にある。まずは本人を落ち着かせるために「お茶にしましょうか」「テレビを見ます?」など、興味を別のところに向けよう。本書にこんな言葉がある。

 認知症の介護の基本は、「要求の受容と傾聴」です。

 決してイラついた感情をぶつけてはいけない。筆者の母親は不器用なので祖母に怒りをぶつけ続け、「私は見知らぬ人に虐待されている」という発言を引き出してしまい、涙を流した過去がある。家族みんな笑顔で暮らしたいならば、発言や行動を受け流す技を身につけよう。

【Case5 着替えや入浴を拒否する】

 認知症患者にとって、服を脱ぎ、お湯に浸かり、体を洗う入浴が難しい行為になる。また、嗅覚は認知症の初期段階で弱くなる感覚なので、自分の体臭に鈍感になりがち。さらに問題なのは、自身の肉親の存在も忘れるため服を脱がそうとする“実の子ども”が“他人”に見えて、恐怖や不安に襲われるのだ。結果、家族から「風呂に入って」という催促が苦痛になる。ときには反抗して暴力をふるうことも。

 したがって大切なのは「安心させること」だ。入浴を促すときは時間をかけて行動させ、脱衣所に行ってからしばらく雑談をかわす。本人の気分が和んできたところで、もう一度「お風呂に入りましょう」と声をかける。すると「ああ、そうだね」と自分から服を脱ぎだすこともあるそうだ。

 ほかにも本書は、“遠距離介護”という選択、家族が認知症になったときに起こりがちなケース、認知症を理解するための「9大法則・1原則」、介護離職経験者からの3つのアドバイスなど、介護に悩む人々にとって目からウロコな情報がぎっしりつまっている。

 次回は、介護家族がたどる“4つの心理的ステップ”を紹介したい。

文=いのうえゆきひろ