おとぎ話は終わっていなかった!?「めでたし」の先の物語とは…

エンタメ

2018/11/10

『願いをかなえる呪文』(クリス・コルファー:著、田内志文:訳/平凡社)

 おとぎ話といえば、多くの人が子どものころから慣れ親しんでいる物語で、グリム童話やアンデルセン童話などが有名だ。古くから語り継がれているこれらの物語は、私たちに夢や教訓を与えてくれる。しかし、もしもそれらのおとぎ話に続きがあったとしたら? 幸せになった主人公や、退治された悪役たちは、その後どのような人生を送ったのだろうか。

 そんな、誰しもが一度は想像したことのあるおとぎ話の続きを描いたのが、この『願いをかなえる呪文』(クリス・コルファー:著、田内志文:訳/平凡社)だ。

 主人公はアレックスとコニーの双子。2人はあるとき、12歳の誕生日におばあちゃんからもらったおとぎ話の本、『ランド・オブ・ストーリーズ』の中に入ってしまう。そこはおとぎ話の世界で、登場人物たちが物語の続きの生活を送っていた。双子はもとの世界に帰るため、「願いをかなえる呪文」に必要なアイテムを探す旅に出る、という物語。

 著者であるクリス・コルファー氏は、俳優としても有名だ。テレビドラマ『glee』ではカート・ハメル役を演じ、ゴールデン・グローブ賞最優秀助演男優賞を受賞している。彼が書いたこの「ザ・ランド・オブ・ストーリーズ」シリーズは、アメリカではすでに発売され、ベストセラーになっているうえに、映画化も決定しているほどの人気だ。(『願いをかなえる呪文』のカバーより)

 この作品の魅力は、なんといってもおとぎ話の世界に入り込むという夢のような設定だろう。しかも、白雪姫、眠れる森の美女、赤ずきんなど、有名なおとぎ話の登場人物が物語ごとに国を作り、同じ世界に存在している。プリンセスや妖精が暮らす国は非常に美しく、まさにファンタジーの世界。一方、悪役たちが隠れる森や、トロル・ゴブリンが暮らすすみかは、暗く不気味に描かれている。おとぎ話の光と闇が両方存在する世界なのだ。

 さらに、この作品では、今まで語られてこなかったおとぎ話の続きや裏側が描かれているのも魅力的だ。特に、白雪姫の悪の女王の過去や、ゴルディロックスがくまの家に入った理由などには、クリス・コルファー氏の想像力がふんだんに発揮されている。古くから伝わるおとぎ話を掘り下げることで、物語にさらなる奥深さが生まれているといえるだろう。

 また、作中では、双子がこの世界にある王国を冒険してまわる。行く先々でおとぎ話の登場人物に出会い、彼らの世界や人生に触れていく。登場人物たちの知られざる人生への驚きや、プリンセスに出会った感動、悪役に対峙したときの恐怖などを、読者も一緒に味わえるのだ。また、とにかく展開が早く、双子には次々に危険が襲いかかるので、常にハラハラドキドキ。休む暇なく、さくさくと読み進むことができる。

 一方、この作品では主人公である双子の成長も描かれている。成績優秀だが学校では孤独で、夢見がちな少女アレックスと、勉強が苦手で皮肉屋な一面もある少年コニーは、双子ではあるが正反対。作品の序盤では、意見の食い違いからケンカをすることも多かったが、2人で協力して困難を乗り越えていくうちに、相手の良さを見つけ、お互いに認め合うようになっていく。今後のシリーズにおいて、2人がどのように成長していくかも注目ポイントだ。

 おとぎ話は「めでたし」で終わっていても、登場人物たちの人生は終わっていない。この作品から、また新しい物語が始まっている。子ども向けに書かれた作品ではあるが、大人であっても、これを読めばおとぎ話に夢中になっていた子どものころを思い出し、童心に返ることができるだろう。おとぎ話が大好きなすべての人におすすめの本だ。

文=かなづち