水木しげるの未発表原画ついに書籍化! 165体もの妖怪たちが蠢く、その最後の最新作の全貌とは

マンガ

更新日:2018/12/3

『妖怪たちのいるところ』
水木しげる:絵、小松和彦:文/KADOKAWA)

 アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』の原作者として知られる、妖怪マンガの名手・水木しげるさん。没後3年を迎える11月30日(金)、水木さんの妖怪絵21枚を収録した『妖怪たちのいるところ』(水木しげる:絵、小松和彦:文/KADOKAWA)が発売された。

 水木さんは1922年に生まれた。太平洋戦争では激戦地であるラバウルに出征し、爆撃で左腕を失うも復員。その後、さまざまな職業を経て紙芝居作家となり、1958年に『ロケットマン』でマンガ家デビュー。以降、『ゲゲゲの鬼太郎』のほか、『河童の三平』『悪魔くん』などの名作を多数生み出した。そして、1991年の紫綬褒章、2003年の旭日小綬章などをはじめ、その功績を称えるべく複数の賞にも輝いており、日本のマンガ界における存在感は計り知れないものだった。そんな水木さんが亡くなったのは、2015年11月30日のこと。同日は“ゲゲゲ忌”と命名され、水木さんと縁が深い土地・調布市では毎年追悼イベントも開催されている。

 そして、今年のゲゲゲ忌に刊行となったのが、本作である。収録されているのは、すべて未発表作品。水木さんの繊細で、ほんの少しユーモラスさが混じった線で描かれる妖怪たちが、所狭しと蠢いている。

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本書より 「一 妖怪のとき・暗闇の世界」

 特筆すべきは、この世のものではない存在たちを“場所”という切り口を用いて分類している点だ。家や古道具、死後の世界の道など、それぞれの場所に棲む妖怪たちの姿が禍々しくもいきいきと描かれている。

 そしてなかには、「ぬりかべ」のように『ゲゲゲの鬼太郎』で目にしたことのある妖怪の姿もあり、思わず郷愁に駆られてしまう。

(C)水木プロ 妖怪と図像 その姿かたち

 同時に、一体一体に対する解説や伝承も収録。水木さんがこれまでに出されてきた著書の記述を編集しなおして収めているため、あらためて妖怪たちの成り立ちを知ることができる。

 さらには、それぞれの絵に対する解説も。それを手掛けるのは、妖怪学の第一人者である小松和彦さんだ。民俗学の知識を交えた解説は、水木さんが絵にこめたメッセージを受け取るための手助けになる。そして、妖怪が生まれた当時の時代背景や生活スタイル、価値観などにも触れることができるはずだ。

 ただし、必ずしもそういったことを考えることはない。特別寄稿をした画家・山口 晃さんによると、まずは「平静に見るのが良い」という。過度に期待をしたり自分のためになるような部分を見つけたりしようとせず、また、アラ探しをするのも無粋。ぼーっと眺めたときに、心がどう動き出すのか。それを味わうのが絵を楽しむ醍醐味なのだ。

 そして山口さんは、一見開きに何体もの妖怪が描かれている本作を、「あたかも一幕ごとに豪華なセットが入れ替わる舞台を見ているような趣がある」(引用すべて本書より)と評している。これは確かに。ページをめくるごとに場面が切り替わり、多種多様な妖怪たちが顔を出す。本作は165体もの妖怪たちが競演する、大掛かりな舞台と言えるかもしれない。

 讀賣新聞や産経新聞、東京新聞など、各紙でも絶賛の声が相次いでいる、水木さんの最新作『妖怪たちのいるところ』。ここでしか見られない未発表作品に触れることで、生前の水木さんが生命をかけて追い求めてきたものの一端を知ることができるだろう。

文=五十嵐 大