ピュアな悪魔が、いじわる天使にいろいろ奪われて…!? スタイリッシュBLの極み 『愛は金なり』

マンガ

公開日:2018/12/6

『愛は金なり』(熊猫/笠倉出版社)

 ボーイズラブは才能ある新人が絶えまなく登場するジャンル。2017年に初コミックスが発売され、今作『愛は金なり』(笠倉出版社)が5冊目となる熊猫(ぱんだ)もそのひとりだ。既刊も含めて、まず圧倒的にスタイリッシュな装丁が目を引く作家だが、それもそのはず、熊猫は、エディトリアルデザイナー、イラストレーターを経てマンガ家となった経歴を持つ、デザインのプロ。スタイリッシュが極まっているのも納得だ。

(C)熊猫/笠倉出版社

 今作の舞台は、天使が住む天界、悪魔が住む魔界、人間の住む人間界の3つの世界があるこの世。人間だけは天使や悪魔の存在を知らない世界だ。見合い話から逃げるため、悪魔のソラ(実年齢は165歳。人間界では暫定18歳)は、黒猫メギドを連れて、魔界から人間界に家出する。そこで出会ったのは、ゲイ向けの売り専サロン「パライソ」のオーナー・エリル。実はエリルは天使で、魔力を奪われたソラは、「返してほしくば金」だと、パライソの裏方で働かされることになる。けれど、割ったグラスはもちろん、エリルが「かわいい服を着せたい」と勝手に用意するソラの洋服などもどんどん課金され、借金は膨らむばかりで…。

 『愛は金なり』前半の注目ポイントはソラの度を越した世間知らずさと、エロスなシーン。会ったその夜に、エリルはソラに手を出すのだが、それがちょっとめずらしいパターンなのだ。なんと描かれるのはソラの「精通」。ソラは裕福な家に生まれ、教育係のデューラ(イケメン)に過保護に育てられたため、セックスやオナニーという言葉すら知らず、精通もまだという、完全純粋培養のピュア悪魔だったのだ。なにをされているのかもわからないまま、エリルに精通をおいしくいただかれてしまうソラ…。一緒に暮らすエリルから、やさしさといじわるとを交互に繰り出され、いつの間にかエリルを好きになっている自分にも気付かないソラのピュアさはまぶしいほどだ。

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(C)熊猫/笠倉出版社

 ふたりは毎日のようにいちゃいちゃするようになり、最初はエリルが一方的にソラを愛でているが、ソラがエリルを気持ちよくしようとがんばるシーンも描かれる。ここでも、ソラのピュアさが発揮されて、「エリルがいつもするから」と、通常のBL作品ではあまり見かけない描写があり、ほんとうのピュアってこういうことだよね、と思わされた。どんなシーンかは、ぜひマンガで確かめてみてほしい。

 後半の注目ポイントは、そんなドタバタエロティックコメディな前半から打って変わって、エリルの出生の秘密が明かされ、一気にシリアスなトーンになることだ。エリルが人の入れ替わりが激しい水商売をしているのも、ソラの魔力を奪ったのも、理由があったのだ。この過去パートで描かれる、エリルが「自分には還る場所がない」という思いを抱くきっかけになった、写真家の男とのエピソードは哀切きわまりない。

 行方不明のソラをついに探しあてた教育係のデューラによって借金を完済され、魔界に連れ戻されそうになるソラだが、エリルの孤独を知り、もう一度、彼のもとに帰ろうとして――。

『愛は金なり』は、長い孤独を、偶然の出会いと純粋な愛が救うさまを描いたラブストーリー。読後、ふたりを祝福するあたたかい気持ちになれるマンガである。

文=はたのくみ

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