フェイクかそれとも本物か? 「三億円事件」真犯人による告白小説は、実は……

文芸・カルチャー

2018/12/9

【フラッシュの点滅にご注意ください】

 いわゆる「三億円事件」が発生したのは1968年12月10日のこと。つまり半世紀前だ。

 それが、いまだに昭和最大の窃盗事件として語り継がれるには、いくつかの理由がある。

 まず、被害総額があまりにも巨額だったこと。50年前の3億円は、今の10億~20億円の価値があったそうだ。

 そんな大金が、白バイ警官に扮した犯人によって、誰一人傷つけられることなくあっという間に奪われた。そして、捜査が進むにつれ、この盗みが用意周到に計画された犯罪だったことがわかっていく。国民は、犯人を一種のアンチヒーローに見立て、暗い喝采を送った。

 一方、警官を装っての犯行という時点で、犯人は警察に喧嘩を売ったに等しかった。当然、威信をかけた懸命の捜査が行われた。しかし、時は空しく流れ、1975年には犯人未詳のまま公訴時効が成立してしまう。

 こうして、日本で初めてモンタージュ写真も作成された犯人は、日本犯罪史上に残るレジェンドとなった。

 1988年には民事時効も成立して、文字通り完全犯罪となったこの未曽有の事件は、現在に至るまで、事あるごとにマスコミに取り上げられてきた。そして、いつのころからか、まことしやかに真犯人の名前がささやかれるようになった。

 警察官の親を持つ、不良少年S。Sは事件の直後、毒による不可解な変死を遂げたという。テレビでは繰り返し事件を題材にしたドキュメンタリーや特番が放送され、S犯人説は少しずつ定説のようになっていった。さらに、インターネット上に事件を検証するサイトが数多できて、「三億円事件」は当時生まれていなかった人間でさえ概要を知る“国民的事件”となったのである。

 こうした中、真相を告白する文章がネットの小説投稿サイトにアップされている、という情報がSNS上に流れてきたのは、数か月前のことだと記憶している。

 タイトルは『府中三億円事件を計画・実行したのは私です』。近頃のネット小説らしい、直截的な題だ。著者は「白田」。スタイルは一人称の告白体。現在の「白田」氏が心情を語る独白パートと、事件当時の回想を小説風に描くパートで構成されていた。

 当たり前のように本作はバズった。掲載サイトのPVは800万を超えたそうだ。そういう背景があったので、当初本作は犯罪実録ものだと思っていた。しかし、しばらく読み進めて勘違いに気づいた。

 これは“青春小説”、そして“恋愛小説”として書かれたのだ。綴られているのは、大人になる直前、まだ何者でもない自分を持て余しながらも、何者かになりたいと希求する若人の、魂の記録だった。

 そんな文章が、このたび書籍として『府中三億円事件を計画・実行したのは私です。』(ポプラ社)のタイトルで出版されることになった。

 この作品は、昭和というジェットコースターのような時代を知る人間にはノスタルジーを、知らない人間には一種の興奮を与えてくれることだろう。現代日本が失った熱がまだまだ発散されていた時代の群像劇。出会ってしまった四人の男女。若者らしい友情と恋愛。そして、裏切り。犯罪で「青春」を完結させた彼らの物語は、きっと老若男女問わず、多くの人々の心を揺さぶるはずだ。

文=門賀美央子

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